京都アニメ会社放火/なぜ被害は拡大したか

 京都市伏見区にあるアニメ制作会社「京都アニメーション」のスタジオで、男が「死ね」と叫びながらガソリンのようなものをまいて、火を付けた。3階建ての建物はあっという間に炎と黒煙に包まれ、34人が亡くなった。35人が負傷して病院に運ばれ、うち10人は重傷。男も顔や胸などにやけどを負っており、病院で治療を受けている。

 放火事件としては平成以降、最悪の犠牲者数となった。男は関東在住の41歳で、現場近くで警察官に身柄を確保された際に、制作会社への恨みを口走っていたという。しかし制作会社の従業員だったことはなく、どのような関係にあったのか分かっていない。京都府警は男の回復を待って事情を聴く。

 京都アニメーションはファンから「京アニ」の愛称で親しまれ「涼宮ハルヒの憂鬱(ゆううつ)」や「けいおん!」など数々のヒット作品を手掛けた。独創性と、実写のような美しい背景描写など質の高い作画技術でアニメ界屈指の存在といわれる。海外の人気も高く、事件は韓国や中国、欧米で速報され、悲しみや励ましの声が続々と寄せられた。

 なぜ、被害はここまで拡大したのか。動機など凶行に及んだ経緯の解明はもちろん、多くの人が出入りし、資料や原画といった可燃物も多いスタジオの防火対策や避難経路の確保がどうなっていたか検証が待たれる。

 男が放火したのは1階だった。ガソリンをまいたなら、揮発性が高いことから爆発的な火災が起こり、1階から3階にかけて設置されているらせん階段を伝って、多数の紙類があった建物内に煙と炎が急速に広がったと専門家はみている。火災発生時、中には74人がいたが、火災に気付いても、難を逃れるのは容易ではなかったとされる。

 府警によると、34人の死者のうち、1階で2人、2階で11人、2階から3階への階段で1人が見つかった。半数以上の19人は3階から屋上に通じる階段で折り重なるように倒れていた。火災から逃れようとしたが、何らかの理由で扉を開けられず、脱出できなかった可能性がある。3階や屋上には誰もいなかった。

 ガソリンを使った放火では過去にも多くの犠牲者が出ている。青森県弘前市で2001年5月、消費者金融の支店で男がガソリンをまき「金を出せ」と脅し、断られると火を付け、5人が亡くなった。名古屋市では03年9月、運送会社の支店で男がガソリンをまいて立てこもり、爆発で男や従業員ら3人が死亡した。

 今回放火されたスタジオには消防法で義務付けられている消火器や警報器は備え付けられていたが、総務省消防庁は建物の構造や多数の死傷者が出た経緯を調査するため、職員らを派遣した。

 惨劇の現場となったスタジオでは、京都アニメーションの制作で中核的な役割を担っている監督や原画、キャラクターデザインなどのスタッフらが働いていたという。社長は「日本のアニメ業界を背負って立つ人たちが、こういう形で傷つき、命を落としていくのはたまったものではない」と無念さをにじませた。

 多くの人材を失ったことによって今後の制作に影響が出ることも予想される。しかし支援の輪は国内外で広がりを見せており、一日も早く再起することを期待したい。

2019年7月20日 無断転載禁止