老夫婦の悲劇

 鳥取市の82歳男性が自宅で78歳の妻を押して転倒させ、死亡させた傷害致死事件の裁判員裁判。18日の判決公判で懲役3年、執行猶予4年(求刑懲役4年)が言い渡されたが、長男の意見陳述に心が揺さぶられた▼事件は、妻に押され、謝罪がないのに腹を立てた男性が後ろから妻を押したとされた。先に妻が男性を押したのはなぜか、ずっと気になっていた。初公判で検察側は、孫の結婚披露宴に行かないと言う男性をたしなめるためと指摘したが、証人尋問での長男の証言が心に引っ掛かった。男性は事件直後に「幼なじみに会いに行こうとした」と話したという▼長男は、その後の公判の意見陳述で、過去に男性が自転車で転んで病院に運ばれたのを受けて、外出を妻が案じていたことを挙げ、「母は身をていして止めようとしたのだろう。父には母の思いを感じ取ってほしい」と訴えた。判決後も真相は謎のままだが、妻の愛情を示す長男の言葉に悲しみが増した▼押された妻は足元の箱につまずいて転んだ。自宅が散らかっていたのも不幸だった。男性によると「こたつのそばにあり、いろんな物を取れる便利な箱」。動くのがおっくうな高齢者の家庭にありがちな風景だ。証人尋問で長女が「事件ではなく事故。部屋が片付いていれば」と悔やむのが切なかった▼山陰両県は高齢化先進地。仲が良かったという老夫婦の悲劇は人ごとと思えない。(志)

2019年7月21日 無断転載禁止