英首相にジョンソン氏/「合意なき離脱」回避を

 英国の与党、保守党の党首選は、欧州連合(EU)離脱強硬派として知られるボリス・ジョンソン前外相が勝利しし、新首相に就任した。下馬評通りの選出で、驚きはない。世界の関心は既に、ジョンソン氏が経済的混乱必至の「合意なき離脱」へ突き進むのかに移っている。

 ジョンソン氏は党首選で、10月31日の離脱期限を順守し、合意なき離脱もいとわないと繰り返した。まず、EUに対し離脱条件の変更を要求するとみられるが、EU側はメイ前政権とまとめた合意案の再交渉には応じない姿勢を堅持している。

 英国もEUも譲歩を拒否し、何の進展もないまま離脱期限を迎えるのが最悪のシナリオだろう。重要なのは期限の順守ではない。合意なき離脱が招く経済の破局的な混乱を回避することだ。

 ジョンソン氏はこれまで、仮に合意なき離脱に至っても他国との貿易関税は回避できるなどと楽観論を展開してきた。英国内には、本来の離脱期限は3月だったのだから10月までにはリスクへの備えが整い実際の打撃は少ない、との希望的観測もあるという。

 だが英国がEU加盟国として享受していた他国との協定や合意が一夜にして白紙となる事態は、たとえ対策を講じていたとしても、必ず想定外の混乱を伴うだろう。

 英国で離脱交渉を担当した高官は「(合意なき離脱は)手りゅう弾のピンを抜いて頭に乗せるようなものだ」と言う。英元駐EU大使は「先進国で過去数世代、経験されなかったような規模と長さの大混乱を招く」と警告する。

 ジョンソン氏は20代の頃、英紙のブリュッセル特派員を務めEUへの辛辣(しんらつ)な論調で名をはせた。その後、政界へ進むとロンドン市長選では一転して親EUの立場を宣伝して当選。さらに2016年のEU離脱を問う国民投票では離脱派に転じた。当時首相だった政治的ライバルのキャメロン氏を追い落とすため、との解説がある。

 英メディアからポピュリストとみなされるジョンソン氏の特徴は、良く言えば融通無碍(むげ)なところにあるようだ。強硬離脱の主張を、今後の情勢次第で軟化させる可能性はあるだろうか。

 EUの次期行政トップ、欧州委員長に決まったドイツのフォンデアライエン国防相はこのほど、10月の離脱期限延期に柔軟な姿勢を示した。

 ジョンソン氏はこの機会を逃すべきではない。英国の最大の問題は、与野党も世論もEU離脱を巡り分裂したままであることだ。時間的余裕が生まれれば、解散総選挙など国民に信を問うことで国論をまとめる機会が得られる。その結論が合意案通りの離脱であれ、離脱撤回であれ、混乱は回避されるだろう。

 チャーチル元英首相に関する著作があるジョンソン氏は、第2次大戦の救国の首相に私淑しているとされる。チャーチル氏はドイツの空爆が英本土に迫る苦境に際し、将来の英国人から「あれが彼らの最良のときだった」と言われるように戦い、耐え忍ぼうと演説した。

 英国は現在、苦境にあるが、ジョンソン氏は誤解すべきではない。局面打開で今、元首相から学ぶべきことは強敵に対抗する闘志ではない。国民に対し、冷静に道理を語り、分断を埋める忍耐だ。

2019年7月27日 無断転載禁止