米利下げ/円高圧力に警戒を

 米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)が10年7カ月ぶりに利下げを決めた。欧州中央銀行(ECB)も9月にも利下げする構えで、世界の中央銀行は金融緩和競争に突入しつつある。為替相場で円高圧力が強まると予想され、日本経済への影響を警戒する必要がある。

 FRBは主要政策金利を0.25%引き下げた。利下げはリーマン・ショック後に事実上のゼロ金利政策を採用した2008年12月以来。米国債など保有資産の縮小も、9月末に予定していた停止時期を2カ月前倒しして終了する。

 FRBが利下げ路線に転換したのは、米中貿易摩擦の影響などで世界経済が減速しているためだ。米経済の拡大局面は過去最長の10年を超える見通しだが、海外リスクで先行きの不確実性が高まっており景気悪化を未然に防ぐ「予防的」利下げに踏み切った。

 世界経済には、米中貿易摩擦など下振れリスクが近年になく多い。米中両国は貿易協議の再開で合意したとはいえ着地点は見通せない。中国経済の減速や英国の欧州連合(EU)離脱も不安要因だ。FRBが早めの利下げを決めたのはある程度理解できる。

 しかし、景気が堅調な中での金融緩和には副作用があることに注意しなければならない。過熱気味の金融・不動産市場に緩和資金が流入すればバブル発生の恐れがある。景気後退時の利下げ余地も小さくなる。FRBには、景気悪化を防止すると同時に、金融緩和の負の効果にも目配りする細心の金融政策運営を望みたい。

 今回の局面で、トランプ大統領が利下げを繰り返し要求したのも大きな問題だ。FRBのパウエル議長が独自の判断で利下げを決断したと信じたいが、仮に圧力に屈して中央銀行の独立性が損なわれたと市場が受け取れば、FRBに対する信頼が傷つき、金融政策に重大な支障が生じかねない。

 米経済の最大のリスクである米中貿易摩擦を引き起こしているのはトランプ政権だ。その尻拭いをFRBに押し付けるのは筋違い。トランプ大統領は中央銀行の独立性を尊重し、FRBに介入する言動を直ちにやめるべきだ。パウエル氏も政治圧力を無視する姿勢を貫いてほしい。

 日本にとって心配なのは、米国だけではなく各国の中央銀行が相次いで金融緩和にかじを切っているため、景気の足かせとなる円高が進行する可能性があることだ。7月には韓国やインドネシア、トルコが利下げし、ECBは早ければ9月の次回会合で利下げを決めるとみられる。

 パウエル氏が早期の追加利下げに慎重な発言をしたことで為替相場は一時、円安に振れたが、日米間をはじめ内外の金利差が縮小すれば円高圧力が強まるのは間違いない。

 国内景気の足腰は弱く、ここで円高が進めば、輸出企業の収益が圧迫され、景気の先行きは一段と不透明になる。日銀には円高を防止する機動的な対応が求められる。

 日銀は必要ならちゅうちょなく追加緩和を行う方針だが、政策の余地は限られている上に、長期の金融緩和の副作用も指摘されている。黒田東彦総裁は「追加的な手段はいくつもある」と言うが、手詰まり感は否定できない。日銀は難しい政策運営を迫られている。

2019年8月2日 無断転載禁止