海賊版サイト対策/地道に包囲網の構築を

 インターネット上に漫画や雑誌などを無断掲載する海賊版サイトを巡る対策で、政府が足踏みしている。サイトへの接続を強制的に遮断するブロッキングの法制化は通信事業者や憲法学者らの猛反対で断念。続いて違法ダウンロードの対象を全ての著作物に拡大する著作権法改正案には自民党からも待ったがかかり、国会提出を見送った。

 今年4月からは、サイトに接続しようとする利用者の端末に警告画面を表示する「アクセス警告方式」の検討を進めてきた。しかし総務省の有識者会議が「憲法が保障する『通信の秘密』に抵触する恐れがあり、実施は困難」とする報告書をまとめ、海賊版対策は三たび頓挫した。

 政府が対策に乗り出すきっかけになった「漫画村」のサイトは昨年4月に閉鎖され、著作権法違反容疑で逮捕状が出ている元運営者の男はフィリピンで身柄を拘束された。漫画村による被害は3千億円以上とされ、サイト閉鎖で雑誌と単行本を合わせた漫画の売り上げは回復したが、悪質サイトは後を絶たない。

 出版界を中心に危機感は根強い。今後、ブロッキングなどの議論が再燃する可能性もある。ただ問題を一気に解決できる”特効薬”はない。悪質サイトへの広告停止や合法サイトの普及なども含め、地道に対海賊版の包囲網を構築していく必要がある。

 海賊版サイトは、著作権者の承諾を得ずに掲載した漫画などを無料で読ませ、広告料を稼ぐ。漫画村は遅くとも2015年夏までに開設され、集英社の「ONE PIECE」や講談社の「進撃の巨人」など人気作品を発売直後に掲載。17年後半から利用者が急増し、18年には月間アクセス数が1億6千万を超えた。

 その年4月、政府は緊急対策を発表。漫画村など悪質な3サイトについて、接続業者に自主的に接続を遮断するよう促した上で、裏付けとなる法改正を行うとした。ところが政府の有識者会議で、全ての通信をチェックして特定の通信先へのアクセスを遮る接続遮断は通信の秘密を侵害する恐れがある-と通信事業者側が猛反対。出版社側と真っ向から対立した。

 10月になっても意見はまとまらず、接続遮断は棚上げされた。今年2月には文化庁が著作権法改正案をまとめた。著作権侵害を知りながら保存する違法ダウンロードの対象は音楽と映像に限られてきたが、それを漫画や書籍など全著作物に広げ、悪質な違反には刑事罰を科す内容だった。

 個人のブログや会員制交流サイト(SNS)も含め、ネットに広く規制の網が掛かることに「利用者を萎縮させる」と反発が拡大し、自民党は法案を了承しなかった。

 そして、アクセス警告方式。接続遮断と同様に全ての通信をチェックする必要があり、通信の秘密との兼ね合いから日の目を見なかった。

 内閣府が最近まとめた報告書では「他の取り組みの効果や被害状況などを見ながら検討」と、接続遮断の実現になお含みを持たせている。著作権法改正案の修正も選択肢として残っている。

 とはいえ、強力な対策はネット上で自由に情報がやりとりされる環境を制約する副作用を伴う。地道な対策を積み重ねながら、拙速を避けて慎重に議論していくべきだ。

2019年8月13日 無断転載禁止