「仇討ち思想」にご用心

 自分の言い分が通らないからと部活を辞めてしまい、一人で練習をする。意地悪しないと約束した隣の子が、それを反故(ほご)にする行為を続けるので「仕返し」をする。子どもが、そんな行動をとったらどうだろう。わが子なら味方になって応援するか、それとも諭すか▼捕鯨の問題や韓国への輸出規制を巡る日本政府の対応が、世界からそんなふうに映っていないか気になる。国内での見方と違い、周囲の国は事情に詳しくなく「親子の情」のようなバイアス(偏り)も働かないから余計だ▼深刻度は違うが、歴史を振り返ると90年近く前にも似たケースがあった。日本が今の国連の前身、国際連盟の脱退を決めた時だ。日本を焦土にしても今の中国東北部に当たる満州の権益を守る決意を強調し、「焦土外交」と呼ばれた時代のことだ▼当時の新聞はこぞって脱退を支持。連盟の総会で全権を務めた松岡洋右(ようすけ)(後の外相)は留飲を下げた立役者として一躍、時代の英雄扱いされた。その延長線上に先の大戦が待っていた▼当時の言論人、清沢洌(きよし)は、こうした日本人の心情に働く「仇討(あだう)ち思想」の危うさを指摘していた。「耐えて耐えて、最後に-」というやくざ映画から企業ドラマまで通じる筋書きに共感を覚える人は今も多い。74回目の終戦記念日を迎える。100年近くたてば技術は飛躍的に進歩するが、人間の心情はそうはいかない。ご用心だ。(己)

2019年8月14日 無断転載禁止