韓国大統領演説/「静かな外交」に乗り出せ

 深まる日韓関係の葛藤を解きほぐす契機になるのだろうか。対話のメッセージと日本が受け取るには微妙な内容だった。

 韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領が日本の植民地統治からの解放記念日となる「光復節」に際し行った演説は、ここ最近の厳しい対日批判は抑制したものの、葛藤の要因となった韓国人元徴用工が日本企業を相手にした訴訟への対応について具体的な言及はなく、もどかしさだけを募らせた。

 日韓は相手国への貿易管理手続きを互いに厳格化する措置を決定、報復の連鎖が始まってしまった。日本製品を対象にした不買運動や日本への旅行自粛、交流中断などの動きも拡大している。主張だけを一方的に振りかざすのではなく、外交を通じ冷静に沈静化を図る回路を準備することが必要だ。

 演説で文大統領は、「今からでも日本が対話と協力の道へ向かうなら、喜んで手を結ぶ」と述べ、対話姿勢を維持する立場を表明した。また、「日本とともに」植民地統治による「被害者たちの苦痛を実質的に癒やそうとしてきた」とも述べ、日本の努力にも一定の評価を示しはした。

 しかし文大統領の語る「対話」は、日本が7月から打ち出した輸出規制強化を巡る通商摩擦の解消に限られ、これでは関係修復に向けたシグナルにはならない。その場しのぎの印象を与えるだけだ。

 日本が求める元徴用工訴訟への対応、さらには韓国が白紙化してしまった元従軍慰安婦に関する2015年の政府間合意についての「対話」を具体的に語るべきだった。

 この点を明確にしなかった今回の演説は、むしろ日韓関係を難しくしている歴史的な懸案を先送りにしたまま、韓国内で起きている反日的な動きを放置してしまうに等しいのではないか。

 唯一、韓国与党の対日強硬派などが対抗措置としてボイコット検討を主張していた来年の東京五輪・パラリンピックへの参加について、昨年の平昌(ピョンチャン)冬季五輪、22年の北京冬季五輪とともに、北東アジアが「平和と繁栄に向かう絶好の機会」と位置付け、参加を確認したことは幸いだ。

 歴史問題や安全保障、経済で日本と協力してきた経緯について言及した文大統領の演説には、1998年に当時の小渕恵三首相と金大中(キムデジュン)大統領がまとめた「日韓パートナーシップ宣言」の精神に立ち返り、ののしり合いに近い主張の応酬ではなく、「静かな外交」を模索しようとする思惑がうかがえる。

 実際、98年の宣言の起草に関与した韓国の元高官が最近、文大統領に対日関係の行方について幾つかの提言を行ったとの動きがある。この元高官が好んで使う「省察」という言葉も、今回の演説に登場した。日本への特使派遣も検討されているという。

 対日非難をトーンダウンさせた今回の演説について、日本は通商分野での摩擦に苦慮した韓国が押し切られつつあると単純に解釈するのではなく、98年の宣言を再生しようと軌道修正に乗り出した可能性がないかどうかを慎重に検討すべきだろう。

 いつまでも対抗措置の応酬を続けていては、日韓どちらも消耗するだけで得るものは何もないという現実に向き合い、対話環境を整えることが求められる。

2019年8月18日 無断転載禁止