今が旬の石見神楽

 舞台から長い胴体を伸ばし、客席の子どもに巻き付く大蛇(おろち)の印象的な写真が9月30日付の本紙1面を飾った。英国ロンドンの大英図書館で披露された石見神楽の一こま。盛り上がりが伝わってきた。演じたのは江津市を拠点にする大都(おおつ)神楽団だ▼江津に赴任していた十数年前、彼らを取材した。中心の団員は当時まだ20代前半。茶髪も交じる当世風の若者集団だったが、神楽に注ぐ情熱を知って、衝撃を受けた。練習熱心なだけではない。歴史に基づき演目を創作し、神楽面をはじめ、手の込んだ刺しゅうの衣装を手作りした。石見にいかに神楽が根付いているかを教えてもらった▼石見神楽は海外の人々にも分かりやすい、派手な演出が売り。代表的な演目が大蛇で、8頭が舞台狭しと躍動する姿は壮観だ▼今は定着した8頭立ての大蛇が生まれたきっかけは1970年の大阪万博だった。1、2頭が一般的だったのを世界の舞台で大編成にしたところ、大喝采を浴びて一躍有名になった。来年は東京五輪。公式イベントでの公演はかなわなかったが、世界への発信の機会を探りたい▼石見神楽のもう一つの魅力は、本来の姿といえる奉納神楽の側面。各地の神社で夜通し舞う。老若男女が境内に集い、夜が更けると舞台横で寝息を立てる子どもも。これこそ広く知ってほしい地域の文化だ。ちょうど今は秋祭りの時季。週末になればどこかで見られる。(輔)

2019年10月3日 無断転載禁止