奥出雲の秋の味覚

 暑さがようやく収まり、食欲が増すと、秋の味覚に舌鼓を打つ。新米に続いて楽しみなのが新そばだ。出雲を代表する味覚の一つとなったそばの歴史は約400年にも及ぶ。江戸初期に松江松平藩初代藩主・松平直政が信州松本から出雲に入った際、信州からもたらしたとされる▼中でも在来種のソバは国内でも数が少なく、横田小そばと阿井小そばは、島根県奥出雲町だけに育つ。両品種とも一般的な品種より収量が少ないものの、食べると歯応えがあり、香りと甘味を楽しめる▼奥出雲の特産品の仁多米とそばは、江戸時代から盛んに営まれたたたら製鉄と縁が深い。たたらの原料の砂鉄を採るため、鉄穴(かんな)流しで尾根を削った跡地に棚田を造って仁多米を栽培した。一方、たたらに使う炭を焼くのに、森林を伐採した場所でソバを育んだ。裾野が広い、たたらゆかりの農業は、中国地方初の日本農業遺産に認定されている▼たたらとそばのつながりを象徴する器が、同町の可部屋集成館で披露されている。松江藩の鉄師を務めた櫻井家がもてなした輪島塗の椀(わん)は殿様専用。赤漆の四角い器は上客用で、25人前の一組は家での普段使い用だ▼櫻井家を訪れた歴代藩主や武士をはじめ家人や職人ら誰もが、にぎやかにそばを食べる情景が浮かぶ。奥出雲町では、11月2日に新そばまつりが始まる。たたらの歴史と文化を思いながら、季節の味を楽しみたい。(道)

2019年10月6日 無断転載禁止