米国のパリ協定離脱/対策を緩めてはならない

 米トランプ政権が、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」からの離脱を国連に通告した。だが、温暖化による被害防止の取り組みの歩みを緩めることは許されない。

 温暖化の影響は顕在化し「気候危機」と呼ばれるまでになっている。日本をはじめとする他国は米国内の積極派との連携を進め、削減目標の上積みを目指すべきだ。

 トランプ政権の姿勢に向き合うときに忘れてはいけない大切なことがいくつかある。

 最も重要なことは気候の危機の深まりだ。日本も過去に例がないような熱波や豪雨に2年連続で襲われ、大きな被害に遭った。熱波や豪雨は世界各地で発生し、極域の氷床や海氷がかつてない速度で解けていることが報告されている。これらの熱波や豪雨は、人為的な温暖化がなければほとんど発生しないことがコンピューターシミュレーションで指摘されている。

 温室効果ガスの排出増加に一刻も早く歯止めをかけ、2050年には排出を実質的にゼロにしなければリスクはさらに深まり、経済や社会、地球の生態系が破滅の危機に直面するとの指摘もある。

 パリ協定は、今世紀末の気温上昇を「2度より十分低くし、1.5度に抑えるよう努力する」との目標を掲げる。だが、協定下で各国が約束した排出削減が実現されても目標は達成できない。協定締約国は、削減目標の深掘りにつながる政策を早急に検討し、実施に移すべきだ。

 今回の離脱通告に対しある米国の識者は「『米国』イコール『トランプ大統領』ではない」との表現で、離脱の影響が大きくないことを指摘した。トランプ政権の姿勢とは逆に、米国の多くの大企業やカリフォルニア州などの州政府が協定を支持し、再生可能エネルギーの拡大や脱炭素を目指す野心的な目標を掲げ、削減を進めていることも忘れてはならない。

 日本政府は温室効果ガス排出量を30年度に13年度比で26%削減という目標を掲げている。だが、これは1990年度比40%減という欧州連合(EU)の削減目標に比べ、野心的だとは言えない。主要排出国の一つとして、早急に削減目標の深掘りを目指す国内議論を始める必要がある。

 気候の危機の深化という事態を見れば「2050年に80%削減」という長期目標を見直し、多くの国と同様に「50年に実質的な排出をゼロにする」という長期目標を掲げることも重要だ。

 トランプ政権の行動に、日本の政権幹部は「残念だ」とするにとどまっているが、それだけで済まされないだろう。炭素税など二酸化炭素の排出に「価格付け」をするカーボンプライシングと呼ばれる政策の導入、強力な省エネ対策の義務付け、再生可能エネルギー拡大のための送配電網利用ルール見直しなど、目標深掘りのための政策を真剣に考えるべきだ。

 パリ協定からの離脱を求めるほどではなくとも、これらの大胆な温暖化対策に反対する声は日本国内にもある。

 その抵抗を排して、脱炭素社会の実現に向けた大胆な政策転換を進めること。先進工業国の一つとして、排出量を大幅に減らすことが健全で強靱な社会や経済づくりにつながるのだと示すこと。それが米国の協定復帰を促すための説得材料になるはずだ。

2019年11月8日 無断転載禁止