英総選挙で与党過半数/課題はまだ山積している

 英国の欧州連合(EU)離脱が最大の争点となった英下院総選挙は、ジョンソン首相が率いる与党保守党が過半数を獲得して勝利した。首相は近く、EUとの間でまとめた離脱合意案を議会で成立させる見通しで、来年1月31日の期限までの離脱に道筋が付いた。

 2016年の国民投票以来3年半も混迷を極めた英国のEU離脱は、民意が再び離脱を後押ししたことで前進したが、これで手続きが完了するわけではない。ジョンソン首相には今後も、取り組むべき重要課題が山積している。

 保守党の勝利には、いくつかの要因がある。まず離脱条件で、ジョンソン首相が10月、困難との見立てもあったEUとの新合意をまとめたことが大きい。国民の反対が根強い「合意なき離脱」の混乱が回避されたことで、離脱支持の有権者が離れなかった。離脱票を奪い合うとされた「離脱党」が、保守党優位の選挙区で候補擁立を見送ったことも有利に働いた。

 ジョンソン氏は、メイ前首相が過半数割れを招いた17年の総選挙からも教訓をくみ取った。前首相は介護費用の負担増を公約した後に、批判を受けて撤回するなど福祉政策が迷走した。ジョンソン氏は今回、比較的穏健な福祉政策を掲げて最大野党労働党に付け入る隙を与えなかった。

 問題は離脱を実現した後の処理だ。英国はEUの関税同盟を外れ、改めてEU側と自由貿易協定(FTA)の締結を目指す。英国にとってEU諸国は貿易額の半分を占める死活的に重要な取引相手だ。

 交渉は移行期間である来年12月末が合意期限。保守党は選挙で移行期間を延長しないと公約したが、多くの専門家は疑問視する。貿易交渉に要する期間は平均で4年とされるからだ。交渉がずれ込んだ後、英国が万一、期限延長を求めない場合は「合意なき離脱」の悪夢の再来となる。

 またEUは現在、日本を含めて域外の70カ国以上と約40のFTAなどを結んでいるが、離脱後の英国はこれを自国に移譲する交渉が必要となる。米国、オーストラリアなどとは改めて協定を結ばなければならない。

 国内政策では英領北アイルランド問題だ。新たな離脱合意案は、北アイルランドだけを実質的にEU関税同盟に残した。EU加盟国アイルランドとの国境管理を復活させないための苦肉の策だが、これにより貿易上は英本土と北アイルランドの間に境界線が生じる。北アイルランドの地域政党は本土からの切り離しに強く反発。英国の一体性を揺るがす問題は禍根を残しそうだ。

 さらにEU残留派が多数を占めるスコットランドでも、独立運動が再燃する気配がある。独立を問う14年の住民投票では英国残留派が勝利したが、今また独立してEUに独自に加盟する道を地域政党が模索している。住民投票には英政府の同意が必要で、直近の実現の可能性は低い。だが将来EU離脱の悪影響が顕著になった場合は、独立要求の激化も予想される。

 90年以上、今の形を保つ英「連合王国」が、イングランドとウェールズだけになる日が来ないとも限らない。後世、そのプロセスの始まりが19年の総選挙だったと指摘されることは、ジョンソン首相も避けたいに違いない。

2019年12月14日 無断転載禁止