たたらと言葉

 奥出雲地方に今も伝わるたたら製鉄にまつわる言葉は、日常的によく使われる。代わりばんこ、とんちんかんに始まって相づちを打つ、焼きを入れる、焼きが回るなど作業工程を人間くさく例えて言葉にする。日立金属安来工場長を務めたことがある佐藤光司同社社長から聞いた▼「私自身は大阪出身ですが、人生の9%は東京人、40%は島根県人。標準語で話しているつもりの言葉は、熱くなると100%大阪弁」▼佐藤社長は、島根県の産学官金でつくる地方大学・地域産業創生交付金事業の責任者を兼ねる。長ったらしい名称は国の補助事業にありがちだが、狙いはたたらの技術を現代に生かし、航空機エンジンなどの素材となる超耐熱合金の研究開発や安来市を中心とする特殊鋼産業の振興▼2018年度から5年計画で進めている同事業は今年が折り返し点。目標にしている特殊鋼関連事業の売上増加額は、初年度達成できなかった。米中貿易摩擦のあおりを受けたのが痛い▼同工場訓(誠実生美鋼)は、製品の品質と工場の安全は心の鏡という意味。心を込めて作っても貿易摩擦という外部ショックの影響は避けられない。しかしここは我慢のしどころ。「石の上にも三年。鋼の上には十年」と佐藤社長。「鉄冷え」を招いている米中貿易戦争も雪解けの気配。島根県の産学官金連携が熱くなるほど我慢のしがいを雪解け後に実感できる。(前)

2020年1月14日 無断転載禁止