前法相夫妻と疑惑/もう沈黙は許されない

 自民党・河井案里参院議員の陣営が昨年7月の参院選で、車上運動員に法定上限を超える報酬を支払った疑いがあるとして、広島地検は公選法違反(買収)容疑で案里氏や、夫で法相を辞任した河井克行衆院議員の地元事務所、案里氏の秘書の自宅を家宅捜索した。押収資料などを基に陣営内の指揮系統を解明し、立件の可否を検討する。

 選挙運動は無報酬が原則だが、公選法などは例外的に選挙カーから支持を呼び掛ける車上運動員への報酬支払いを認め、日当の上限を1万5千円と定めている。案里氏陣営では車上運動員十数人に倍の3万円を支給した疑いがあり、複数の運動員が地検の任意聴取に受領を認めている。

 昨年10月に週刊誌で疑惑が報じられ、克行氏は法相を辞任。夫妻は2カ月以上も公の場に姿を見せなかった。捜索当日の15日夜になり、ようやく別々に報道陣の取材に応じたが、容疑の内容については捜査中を理由に口を閉ざした。だが「法の番人」だった克行氏が不正に深く関与していた疑いも指摘され、これ以上の沈黙は許されない。

 政府、自民党は夫妻に説明責任を果たすよう促すべきだ。野党は衆参両院の政治倫理審査会で説明するよう自民党に要請する。自民党が事情聴取し、国会に報告する方法もあろう。地検の捜査を待たず、あらゆる手を尽くして解明に取り組む必要がある。

 参院選で改選数2の広島選挙区に自民は現職と案里氏の2人を擁立。野党系無所属現職と激戦になり、自民現職が落選した。初当選を果たした案里氏陣営は車上運動員に日当として3万円を渡す際、日付や名目が異なる1万5千円の領収書2枚を作成。うち報酬名目の1枚を選挙費用収支報告書に添付し、法定上限内に収まったように見せ掛けたとみられている。

 報酬の上乗せは買収行為に当たる。公選法では、選挙運動で総括主宰者や地域主宰者ら一定の立場・役職を担う関係者のほか、秘書や親族らが買収の罪に問われ、有罪判決が確定するなどすれば連座制が適用され、候補者本人が関わっていなくても当選は無効となり、同一選挙区から5年間は立候補できなくなる。

 違法な報酬支払いには案里氏の秘書が関与したとみて、地検は任意聴取した。ただ夫の克行氏は運動員らに細かく指示を出すなど選挙運動を取り仕切っていたとされ、違法報酬を巡り、どのような立場にあったか、慎重に調べを進めているとみられる。

 さらに克行氏と旧知の男性会社員は共同通信の取材に、克行氏に頼まれて案里氏陣営の票固めに動き、昨年6~8月に計約86万円が銀行口座に振り込まれたと証言。報酬は克行氏から口頭で約束され、案里氏が支部長の政党支部から入金があったとした。

 この会社員は、車上運動員のほか手話通訳者や事務員のように公選法が報酬支払いを認めている対象者ではない。事実なら車上運動員の報酬上乗せよりも重大で、あからさまな買収になる。

 こうした不祥事のたびに菅義偉官房長官は「自身の判断で説明を果たすべき問題だ」と繰り返す。しかし、やはり公選法違反疑惑で経済産業相を辞任した菅原一秀衆院議員も口をつぐんだままだ。本人の判断に任せっぱなしでは、国民の理解は得られない。

2020年1月18日 無断転載禁止