看護の心と地域実習/地域志向強い人材育む

 島根県立大学学長代行 山下 一也

 島根県立大学出雲キャンパス看護学科の目的の一つは、地域の病院で働き、住民らに寄り添いながら看護ができる人材を育てることにある。そのために、開学以来、県内での地域実習を数多く講義に組み入れてきた。

 例えば、地域医療の実情を知るという目的で、現在島根県内8カ所の中山間地・離島での実習を、看護学科や大学院でも必修科目とし、実際に住民の声に触れることを取り入れている。

 実習後に提出された学生たちのレポートを読んでいると、高齢者の病気への不安、特に1人暮らしになった時の不安が多いことに気づく。例えば、住み慣れた家から町の施設に引っ越しして入所した高齢男性は「墓の整理など全てやるべきことを済ませてきたので、もうやり残したことはない。本音はふるさとの施設で、風を感じて、音を感じて、住みたかったが仕方ない」と話したという。妻の他界後、1人暮らしになった夫にそうした思いが強いことは、学生たちにとって特に驚きだったようだ。

 ところで、最近、恩師の奥様が亡くなったことを恩師からのはがきで知った。奥様への思いが文面から読み取れ、かける言葉もないままに時間だけが過ぎていく。

 男女で比較すると、配偶者の死別は、女性よりも男性の方が影響を受けやすいことが既に報告されている。戦後すぐに書かれた徳永直の「妻よねむれ」(1946年)は、20年近く連れ添った亡き妻への思いを断ち切れないまま、疎開地として田舎の妻のふるさとを訪ねて回る長編小説であるが、前述の1人暮らし高齢男性の思いとかぶるところがある。

 確かに中山間地や離島での暮らしは、医療や買い物へのアクセスも悪く、都会暮らしに慣れている人々には、最良ではないかもしれない。しかし、中山間地、離島の人々にとっては、自然の営み、祖先、歴史、複雑で奥深い文化との関わりの中で生きるこの場所こそが最良であり、1人暮らしの高齢者では、なおさらその思いは強い。

 地域実習を終え、住民の心の声を聞いた学生たちが討論すると、ほとんどがそういった結論に行き着く。地域医療を充実させることが、そこで暮らす人々にとって非常に心強いことになる。これが、現在行っている本学看護学科での地域実習の最終結論だ。

 他の県内看護職養成機関とはかなり異なった情操を育む地域実習により、看護師、保健師、助産師として、県内の中山間地、離島の病院・医療機関・市町村への就職が、最近増えつつある。今後、島根県立大学全体で推し進める新しい入試改革制度と連動しながら、看護学科ではより一層、県民ニーズに合った地域志向の強い看護人材を育成したいと考えている。

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 やました・かずや 医学博士、専門は神経内科、神経心理学。島根医科大学医学部卒業後、1991年にカリフォルニア大学デービス校神経科研究員として留学。94年から津和野共存病院院長、島根県立大学出雲キャンパス副学長などを経て、2019年4月から島根県立大学学長代行。

2020年1月26日 無断転載禁止