NHK新会長就任/経営計画で国民的議論を

 NHKの新会長に前田晃伸・元みずほフィナンシャルグループ会長が就任した。メディア環境が激変する中で、連結決算の事業収入約8千億円、グループ役職員1万6千人超の巨艦を率いる。

 当面の課題は、3月に始めるテレビ番組のインターネット常時同時配信「NHKプラス」を軌道に乗せることだ。受信契約をしている世帯向けのサービスだが、テレビ離れの進む若者らがスマホなどでNHKの番組に触れる機会を拡大したい。

 来年1月までには、2021年度からの次期経営計画をまとめなければならない。公共放送から「公共メディア」への進化を目指すNHKにとって、将来像を示す重要な計画となる。総務省からは、業務と受信料、ガバナンス(組織統治)の「三位一体」の改革を要求されており、計画の中で改革の具体策を示す必要がある。

 肥大化が指摘される業務の範囲については、BS放送をいつ減らすかが焦点だ。一昨年に4K、8K放送が加わり、NHKのBSは4チャンネルに膨らんだ。既存のBS1、BSプレミアムの2波を1波に統合する方針だが、視聴者の目にはサービス低下と映る。4Kテレビの普及状況をにらみつつ、難しい判断を迫られる。

 現在は「放送の補完」と位置付けるネット業務をどう展開していくかも、受信料収入の2.5%以内という予算枠の扱いを含め、注目される。

 受信料を巡っては、ネット時代に即した制度改正が長年の課題である。NHKは従来、テレビを持たずにネットだけでNHKの番組を見る世帯からも、受信料を徴収したい意向を示していた。最近は同時配信の実現を優先し、この「ネット受信料」の議論を自ら封じてきたが、正面から提起するべきだ。

 パソコンやスマホのある世帯から受信料を集める英国、全世帯を対象とするドイツなどの制度が参考になろう。受信料を負担する視聴者の理解が得られるかは、日頃の番組の評価にかかっている。

 ガバナンスに関しては、コンプライアンス(法令順守)に矮小化させず、放送の自由を保障するための改革案を示してほしい。かんぽ不正の報道に絡み、日本郵政グループから抗議された経営委員会が過剰反応して、上田良一前会長に厳重注意し、NHKの自主自律が揺らいだ。

 経営委員は国会の同意を得て首相が任命するが、会長は政府ではなく経営委が任命する。政府と会長以下執行部の間に、国民・視聴者代表で構成する経営委を挟むことで番組への政治介入を防ぐ仕組みだ。ところが現状では、政府に対する防波堤となるべき経営委が、権力がNHKに手を突っ込む橋頭堡(ほ)になっている感さえある。是正は急務だ。

 さらに視聴者が直接、NHKに意思を伝えられる回路も構築するべきではないか。不祥事の際には視聴者が受信料不払いで批判を示したが、受信料制度を合憲とした最高裁判決の後、NHKは不払いへの法的措置を強めている。もし不祥事を重ねても、質の悪い番組を放送しても、受信料を確保できるのであれば、組織の緊張感は失われる。

 次期経営計画で、NHKは自身が「こうありたい」という姿を提示し、国民的議論を巻き起こすべきだ。

2020年1月27日 無断転載禁止