うつ病との付き合い方

 耽美(たんび)派の文豪として知られる谷崎潤一郎の戦前の随筆に「懶惰(らんだ)の説」というのがある。懶惰とは見るからに難しそうだが、平たく言えば、ぐうたらのことである。文士らしく凝った言葉に勤勉や努力などを俗物で作為的とする冷笑を込めながら、ぐうたらこそ人間的と称賛する。谷崎の代表的な日本文化論である「陰(いん)翳(えい)礼(らい)讃(さん)」と重なり合って、柔らかな精神を醸し出す▼その懶惰の説をうつ病の治療法に生かせないか。米子市にある山陰労災病院の精神科医、高須淳司さんは、そんなことを考えている。「医師など理系の人間は、人の心を洞察するのが苦手。小説など文系の知恵を借りることで患者さんの心に寄り添えれば」▼35年にわたって山陰各地の病院に勤務してきた高須医師が感じるのは、うつ症状を訴える人が急増していること。山陰でもここ20年以上で2倍に増え、軽症の人ほど良くなったり悪くなったり長引きやすいという▼うつ病にはまだ分からないことが多い。生真面目で責任感の強い人ほどかかりやすいといわれている。ぐうたらというと聞こえは悪いが、無理をせず休むこと、と捉えてほしい。それが治療の第一歩となるが、「無理とは、どの程度が無理なのか」と診察中に聞かれて、説明に窮することも▼うつ病のつらさは、本人でなければ分からない。時間はかかるが、必ず治る-高須医師が積み重ねた経験が、そう語る。(前)

2020年2月11日 無断転載禁止