止水は深し

 幼なじみで快活なビアンカか、富豪の令嬢でおしとやかなフローラか。テレビゲームソフト「ドラゴンクエストV(ファイブ)」に花嫁選びイベントがある。どちらを選ぶべきか、1992年の発売から四半世紀経た今もネット上で論争が続く▼「フローラを選ぶべきよ。私のことは心配しないで」と遠回しに気を引くビアンカをけなげとみるか、回りくどいとみるかは論点の一つだ。フローラは言動が乏しく影が薄い。ただ「主人公との縁談が進んでいたのに、ビアンカの恋心を察して花嫁選びを提案した。思いやりがある」との見方は盲点だった▼平安時代の一条天皇に2人のきさきがいた。定子は朗らかで漢詩を語るほど賢く、深く愛された。政治的な事情で不遇になる悲劇も知られる。一方、彰子は父・藤原道長の出世に利用されただけの存在とみられがち▼「源氏物語の時代」(山本淳子著)によると、彰子は控えめな性格。愛読書「源氏物語」は当時、漢詩や和歌より格下のサブカルチャーだったが、天皇が「漢詩の知識に裏打ちされている」と評価するのを聞いて天皇との接点を見いだし、作者の紫式部に漢詩の教えを請うたという。何ともいじらしい。天皇の意をくみ、道長に反発し、定子の産んだ子を世継ぎに望んでいたという▼筆者はビアンカ派、定子派だが、フローラや彰子の理解が浅かったと反省した。寡黙な人は注意深く見ないと分からない。(志)

2020年2月12日 無断転載禁止