「核なき世界」の実現/「理性の勝利」で前進不可欠

島根大学名誉教授 牧田 幸人

 第2次大戦後の国際社会において、核兵器を国際関係や国際法秩序の中でどのように捉え位置付けるか、これは国際法の新展開における重要課題であった。特に、核兵器の法的性格や核兵器の開発・保有・使用などをめぐる論点は、政治的にも法的にも最大級の重要なテーマであり続けた。

 先般、ローマ教皇が広島・長崎を訪ね、核廃絶に関するメッセージを全世界に向けて発信した。このメッセージの重要性や価値は有益な指摘や提示に多々内在する。被爆地である広島・長崎から被爆者との対話を踏まえたメッセージを直接発信したことや、その内容面における具体的な提示と哲学的な示唆に、大なる共有価値を見いだすことができよう。

 さて、ここでは「核なき世界」や核廃絶に向けた動向を振り返り、核兵器にどう対処するかという難題について、国際法の視点から論及してみたい。

 第2次大戦後、国連の使命と役割は、国際紛争の平和的処理と武力行使禁止を基軸に、国際平和を実現することにあった。これは第1次大戦後の戦争違法化を継承し、核軍縮や核兵器廃絶をいかに推進し実現するかであった。

 核兵器と国際法に関連し、1994年12月、国連総会は国際司法裁判所(ICJ)に「いかなる事情の下においても、核兵器の威嚇または使用は国際法上許されるか」と諮問した。これに関して96年7月、ICJは「核兵器の威嚇または使用は、武力紛争に適用される国際法の諸規則、とくに人道法の原則および規則に一般的には違反する」と判断した。

 他方、国際法の現状などを勘案し「核兵器の威嚇または使用が、国家の存亡にかかった自衛の極端な事情の下で、合法であるか違法であるかを明確に結論しえない」と判断した。このICJ初の核兵器に関する司法判断は、国際法の進展に重要なインパクトを与えた。これに続く課題は、こうした判断を法規範としてどう条約化するかであった。

 国連では、2017年7月、核兵器禁止条約が圧倒的多数で採択され、同年9月から署名・批准手続きが開始された。この条約は核兵器の使用・開発・保有、核兵器による威嚇などを禁止し、核兵器の非人道性や違法性を法規範として確立する上で歴史的な意義を有する。条約発効のためには50カ国の批准を要し、国連では批准促進決議が採択された。しかし、これまで79カ国が署名し、34カ国・地域が批准したが、核保有国や「核の傘」依存国など、多くはこれに背を向けている。

 21世紀における新しい国際秩序の構築に向け、核抑止論をどう超克し、「核なき世界」をどう具現するか。この難題への積極的な模索とアプローチのためには「理性の勝利」を確信した不断の前進が不可欠だ。

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 まきた・ゆきと 1942年生まれ。国際法学者。京都大法学博士。京都大大学院を修了し、鹿児島大、島根大大学院で国際法を担当。倉吉市在住。

2020年2月23日 無断転載禁止