習主席来日延期/じっくり準備進めたい

 日中両政府は4月に予定していた習近平・中国国家主席の国賓来日の延期を発表した。両国で肺炎を引き起こす新型コロナウイルスの感染が広がっており、当面は終息に向けた国内の対策を優先すべきだと判断した。

 新型ウイルスは非常に感染力が強く、世界中の人々の命と健康、平穏な社会、経済活動を脅かしている。まず両国ともに感染防止対策に尽力するのは賢明な決定だ。

 両国関係は2012年9月の尖閣諸島国有化で著しく悪化したが、安倍晋三首相が習氏の提唱する巨大経済圏構想「一帯一路」に条件付きで支持を表明した17年以降、改善に向かった。両首脳は昨年、習氏が国賓来日して「新時代の日中関係」を定めた「第5の文書」を発表する方針で一致していた。

 菅義偉官房長官は延期について「日中関係に特段の影響があるとは考えていない」と強調。中国外務省の報道官も「最も適当なタイミング、環境、雰囲気の下で実現し、円満な成功を収めなければならない」と述べた。

 国家主席の来日は12年ぶり。中国の急速な台頭で両国の立ち位置が変わる中で、新時代の関係を探る重要な首脳外交だが急ぐことはない。実現は東京五輪・パラリンピック後の秋以降となりそうだ。じっくりと準備し、新型肺炎が収まった後、静かな環境下で行えばよい。

 新型ウイルスの広がりは、感染症や環境などの問題で、両国が同じ運命の下にあることを改めて浮き彫りにした。日本から義援金やマスクなどの支援物資が届き、中国の外交官は深い謝意を表した。

 日中両国は、ウイルスに関する情報交換や不足物資の融通などで協力して対策に当たり、成果を上げるとともに信頼関係を深めてほしい。それは習氏来日への地ならしにもなるだろう。

 「第5の文書」は1972年の国交正常化の際の共同声明や、78年の平和友好条約、98年の江沢民国家主席(当時)、2008年の胡錦濤国家主席(同)来日時の共同文書に続く重要なものだ。

 両国は世界の平和や安定に向け、双方が果たすべき責任を明記する方向だ。習氏の「一帯一路」、安倍首相が主張する「自由で開かれたインド太平洋」構想をいかに記すかなどは固まっていないようだが、平和と共生を美辞麗句だけでなく、言行一致で目指す決意を盛り込むべきだ。

 習政権は「世界一流の軍隊づくり」や「今世紀半ばまでの近代化強国の実現」を国家目標に掲げており、中国が覇権を追わないよう日本は自制を求めたい。国内の人権弾圧や香港デモへの強硬な対応、スパイ容疑での日本人拘束など共産党一党支配の非民主的な政治体制へ不信感もある。

 今回の感染症対策の初動の遅れやインターネット上の情報隠蔽(いんぺい)は、自由な言論を封じる政治体制に起因するとの批判も出ている。尖閣国有化後に中国は人権対話を凍結したが、習氏来日をきっかけに、早期に対話再開を実現し、中国に民主化を働き掛けたい。

 自民党の保守系グループは、中国船の尖閣領海侵犯や香港デモ、北大教授の一時拘束などを理由に習氏の国賓訪問に反対している。だが、意見の相違があるからこそ首脳同士が会って率直に話し合うことが大切だ。

2020年3月7日 無断転載禁止