五輪1年延期/寛容と自制が必要だ

 東京五輪・パラリンピックの開催が1年ほど延期されることが決まった。新型コロナウイルスの感染拡大が深刻さを増す中で、参加選手と数百万人に上る観戦客の健康を危険にさらすわけにはいかない。賢明な判断だ。ほっとした人も多いに違いない。

 各国のアスリートとオリンピック委員会、競技連盟が延期の要望を強く訴えていた。国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長と安倍晋三首相の合意は、それら外部の意向を吸い上げたということだろう。

 バッハ会長は無用な臆測を呼び起こしたくないとして、延期を検討しながら口を閉ざした。この姿勢に対し、アスリートが事態の深刻さを真剣に受け止めていないと、怒りの声を上げたのだった。その意味で、この開催延期はアスリートが自らの手で勝ち取った決定とも言える。

 日本の大会組織委員会の対応も首をかしげるものだった。聖火をギリシャから迎え入れた後、パンデミック(世界的大流行)が広がる中で、予定通りに国内聖火リレーを開始しようとぎりぎりまで準備を進めた。

 聖火ランナーに選ばれた「復興五輪」の象徴でもある市民の気持ちを尊重したのかもしれないが、命の危険にさらされている欧州をはじめとする世界の人々が違和感を抱いたのも事実だ。

 さて延期と決まり、計画の変更に乗り出さなくてはならない。影響は広範囲に及び、調整は一筋縄ではいかない。

 組織委がまず、チケットを既に購入した人と、主に競技場内およびその周辺で活動する約8万人の大会ボランティアに決まっている人に対し、それぞれの権利が損なわれることがないよう、十分に配慮すると約束したのは当然とはいえ良かった。

 大会関係者と観戦客の予約が入っていたホテルは、1年後には別の予約が既に入っているところが多いという。

 競技会場の確保もまた一から始めなければならない。野球、サッカー、バスケットボールなどのいわゆるプロリーグの試合と新しい五輪の競技日程が重複してしまうものもあるだろう。

 また来年の夏には水泳が福岡市で、陸上は米国で世界選手権が開催される予定となっている。五輪が割り込むことになれば、両競技の国際競技連盟は世界選手権の開催時期を再検討しなければならないかもしれない。

 ホテルも競技施設運営者も国際競技連盟も、既に締結した契約の変更や解消に伴う経済的損失の賠償をIOCや大会組織委に請求することになるのだろうか。もし、そうなれば大騒動になる。

 パンデミックの下では、契約不履行となっても免責の対象となるのだろうか。

 各国の選手が多くの期待を背負い、ベストを尽くすことを誓い、競技人生のハイライトを迎えようとする晴れ舞台だ。五輪の持つ祝祭の雰囲気が、そのような利害関係者による権利の主張や、組織委を相手取った訴訟によって損なわれるようなことになれば、それはとても悲しい。

 延期に伴う関係者への打撃はある程度避けられないだろう。しかし、中止とはならず、来年の夏までには五輪を迎えられる。大会成功には、広い意味での関係者全ての寛容と自制が必要だ。

2020年3月26日 無断転載禁止