出雲からの祈り

 新型コロナウイルスの感染拡大防止を理由に、多くのスポーツ興行が中止・延期される中、大相撲春場所は15日間の取組を無事に終了。新大関・朝乃山も誕生した▼ウイルスとも闘った春場所。千秋楽での八角理事長のあいさつに心が揺さぶられた。「元来、相撲は世の中の平安を祈願するために行われて参りました。力士の体は健康な体の象徴とされ、四股を踏み相撲を取る。その所作は、およそ1500年前から先人によって脈々と受け継がれて参りました」▼場所中に力士や周辺から感染者が出ていたら、築いてきた伝統に傷が付きかねなかった。開催を決めるに当たっては相応の覚悟が必要だっただろう。やり遂げたことに拍手を送りたい▼テレビ画面で無観客の会場を見ると「結界が張られた空間」としての土俵がより鮮明に浮かび上がっていた。その中心で軍配を振るったのが出雲市出身の立行司・式守伊之助さん(本名・今岡英樹)。中日の8日目と14日目は、紫色に「出雲」の文字をあしらった衣装に身を包んだ▼昨年10月の秋巡業出雲場所では「本場所では(目立たぬよう抑制的に)斜め下を向いて土俵に上がる」と普段の所作について話していた。土俵に上がった一人一人の振る舞いが問われた春場所。伊之助さんの動きは言葉通りだったが、会場にこだました「はっけよい」の声は、邪気退散を願う出雲からの祈りのように聞こえた。(万)

2020年3月27日 無断転載禁止