京アニ放火殺人で逮捕/遺族らの問いに答えを

 アニメ制作会社「京都アニメーション」の第1スタジオで昨年7月、36人の命が奪われた放火殺人事件で、京都府警は殺人などの疑いで無職の青葉真司容疑者を逮捕した。青葉容疑者は重いやけどを負い、いまだほぼ寝たきりの状態。新型コロナウイルスの感染拡大もあり、勾留先の医療設備を整えるなど環境を整え、逮捕に踏み切った。

 事件発生から10カ月余り。青葉容疑者は「間違いない」と容疑を認めているという。しかし本人の状態が安定しなかったため着手が何度か延期され、捜査は思うように進んでいない。遺族らは無念の思いを抱きながら、なぜこのような凄惨(せいさん)な事件が起きてしまったのかと問い続けている。

 入念に下見を繰り返したり、ガソリンや刃物を用意したりするなど計画性がうかがえるが、具体的な動機はなかなか見えてこない。事件直後に現場近くで身柄を確保された際は「小説を盗まれた」と話したとされ、京アニの公募に応じ「学園もの」など複数の小説を出したものの、落選したことが確認されている。

 とはいえ殺人事件の犠牲者数として平成以降で最悪という重大な結果と釣り合わないとの見方もある。遺族らの問いに答えを出すため京アニとの接点と動機を詳しく解き明かし、さらに成育歴なども含め事件の背景をできる限り掘り下げることが求められる。

 京アニは「涼宮ハルヒの憂鬱(ゆううつ)」など学園もののヒット作品を数多く手掛け、その独創性と実写のような背景描写に見られる質の高い作画技術で知られる。韓国や中国、欧米でも人気があり、惨劇の現場となったスタジオでは、制作の中核を担っていた監督や原画、キャラクターデザインのスタッフらが働いていた。

 青葉容疑者は3階建てのスタジオ1階にガソリンをまき、放火。建物内には70人がいた。1分ほどで煙が充満し、避難が困難になったとされ、36人が亡くなったほか、33人が重軽傷を負った。

 逮捕について京都府警は記者会見で「容体が回復傾向にある。逃亡や罪証隠滅の恐れがある」と説明。青葉容疑者は取り調べに「ガソリンを使えば多くの人を殺害できると思った」などと供述しているが、遺族や被害者らへの謝罪や反省の言葉はないという。

 21年前、21歳の時に父親が亡くなって以降は1人暮らし。コンビニのアルバイトなど非正規の職を転々とし、不況のあおりを受け家賃を滞納するなど生活は苦しかったようだ。2012年にコンビニ強盗事件で懲役3年6月の実刑判決を受け、公判で「仕事で理不尽な扱いを受け、社会で暮らしていくことに嫌気が差した」と述べていた。

 京アニ放火殺人事件の直前にもアパートの隣人男性とトラブルになるなど、職を転々とする中で不満やいら立ちを募らせていたことがうかがわれる。しかし「小説を盗まれた」と言いながら、京アニ側に抗議したり、何らかの交渉をしたりした形跡はない。いきなり凶行に及んでおり、一連の経緯を詳細にたどってみる必要がありそうだ。

 青葉容疑者は昨年11月の任意聴取に「どうせ死刑になる」と話していたという。長期間、ほぼ寝たきりで体力や免疫力も落ちているため感染リスクにも気を配りながらの難しい取り調べとなるが、何とか真相に迫ってほしい。

2020年5月28日 無断転載禁止