コロナと最低賃金/増額の流れ維持したい

 2020年度の最低賃金改定の議論が始まった。新型コロナウイルス流行による企業業績悪化を受け、安倍晋三首相は雇用維持を最優先し、今回の大幅引き上げには慎重姿勢を示した。デフレ脱却策の目玉として旗を振ってきた首相自身がトーンダウンしたことで、数年来の引き上げの流れが止まりかねない。

 コロナ禍で仕事が減った労働者は生活が苦しい。一方、中小企業に無理を強いれば解雇や雇い止めが増え、雇用が一層悪化する。兼ね合いが難しく、労使任せにはできない。雇用を守りつつも最低賃金引き上げの流れは維持できるよう政府が指導力を発揮すべきだ。

 全ての労働者に適用される最低賃金は現在、全国平均で時給901円だ。毎年7月末ごろ中央最低賃金審議会が目安額を示し、各都道府県の地方審議会が地域の実態を踏まえ改定額を決める。安倍政権は「成長と分配の好循環をつくり上げる」として賃金アップでの国内消費底上げを狙い、「最低賃金千円を目指し年率3%程度引き上げる」との政策を進めてきた。

 これに沿って最低賃金は16年度から4年連続で時給二十数円上がり、19年度は27円増と時給で示す現方式になった02年度以降最大の上げ幅だった。経済の好循環によりデフレ脱却を目指すことは、コロナ後も続く10年単位の取り組みだ。ここで中断すれば、遅れを取り戻すのに多大な時間とエネルギーが必要になる。

 今や雇用労働者の約4割が非正規雇用で、世帯主も最低賃金に近い給与水準で働く非正規である例も珍しくない。非正規労働者の収入底上げは、若い世代の結婚や出産を後押しすることになり、同時に社会保障の支え手を強くすることにも資する。少子高齢化対策としても最低賃金引き上げは重要であり、だからこそ政権は力を入れてきた。

 だが経済の現状が厳しいことも事実だ。5月の労働力調査では、パートなど非正規労働者は前年同月比で61万人減った。失業者予備軍とも見なされる休業者数は423万人で、4月の597万人から大幅に減少したものの、7月に入り、コロナ関連の解雇や雇い止めは見込みを含め3万人を超えた。コロナ関連倒産300件超という企業の危機的状況が雇用悪化の要因であり、中小企業はこれ以上無理が難しいことも否定できない。

 ただ経済協力開発機構(OECD)調査で日本の最低賃金は、米国よりは高いものの先進国中ではなお最低レベルだ。リーマン・ショック後の09年、東日本大震災後の11年でも非正規の暮らしを守るため最終的に全国平均7~10円程度上がった。その実績も踏まえれば、自民党内でも今回出ている、社会保障を支えるため企業が苦しい中でも最低賃金を上げるべきだとの声は道理にかなう。

 首相は千円へのアップはなお目指すとしつつも「中小企業、小規模事業者の厳しい状況を考慮して検討してほしい」と、大幅引き上げにはブレーキをかけた。とはいえ政府は、コロナの緊急経済対策として国民への一律10万円給付、収入減になった企業への最大200万円の持続化給付金などは実施している。

 ならば最低賃金引き上げに協力してくれる企業への新たな支援策をもうひと工夫できないか。大企業がコスト削減を下請け企業に押し付けないようにするなど民間側の互助精神も当然求められる。

2020年7月15日 無断転載禁止