野球中継売りのお好み焼き店 球場行けず店で疑似体験

自慢のお好み焼きを出し、カープファンと語らう店主の金岡秀雄さん(左)=松江市東本町2丁目、鉄板ダイニングJIRO
 「野球はしゃべりながら、みんなで見るから面白いんだよ」

 プロ野球の広島戦が映し出される店内のテレビを前に、常連客は上機嫌だ。

 カープファンが集まることで有名な松江市東本町2丁目の「鉄板ダイニングJIRO(ジロー)」は、真っ赤なユニホーム姿も交じる客3人が選手たちのプレーに喜怒哀楽を表に出し、独自の野球論をぶつ。

 徐々ににぎわいを取り戻す店内だが、広島市出身の店主、金岡秀雄さん(63)は「コロナには勝てないね」と苦笑いした。

 松江市内で新型コロナウイルスの感染者が確認された4月、10日間の臨時休業を余儀なくされた。店にとって肝心要のプロ野球公式戦も開幕が大幅に遅れた。

 店内は計16席あり、例年、開幕戦や優勝絡みの試合になるとカープファンでごった返し、立ち見客も出る騒ぎになる。新型コロナウイルスの流行後は、席数を減らしたカウンターと6人掛けのボックス席のみを使用。ファンが注目する試合がある時には、電話予約をくれた客を断らなければならないという苦渋の決断を余儀なくされた。

 「コロナ禍でも来てくれるのはありがたい。『来てください』と言いたいが、言えないのが現状だ」

 売り上げは例年の半分以下。新しい販路を開拓しようと、看板メニューのお好み焼きを中心にテークアウトを試したが結局、軌道には乗らなかった。

 流れが変わったのは6月19日に迎えた公式戦の開幕。球場のチケット入手が例年以上に難しくなり、熱心なカープファンたちが、店内の観戦で球場を疑似体験するようになった。

 常連客の会社員、奥村幸司さん(49)=松江市竹矢町=は「マスター(金岡さん)や他の常連さんとすてきな出会いがあり、和気あいあいとしゃべりながら食事や酒が飲める」と、ファン同士が共有できる空間を大切にしている。

 7月に入って、島根県が発行する県民向けのプレミアム付き「飲食券」や商工会の飲食券を手にした客が連日訪れるようになった。

 「今季は新型コロナで出ばなをくじかれたが、みんなで野球を語りながら楽しく食事ができる場を提供し続けたい」

 金岡さんは弱いながらも吹き始めた上昇気流に、店の存続を懸けている。

2020年8月4日 無断転載禁止