イージス代替策/ゼロから見直すべきだ

 菅政権は秋田、山口両県への配備を断念した地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の代替策としてレーダーや発射装置など同様の装備を洋上で運用する計画を進めている。

 一方で、北朝鮮のミサイル能力向上のため、迎撃態勢だけでは不十分だとした安倍前政権の方針を引き継ぎ、他国領域内でミサイル発射拠点などを攻撃する「敵基地攻撃能力」の保有の是非も検討している。

 洋上イージスも敵基地攻撃能力も巨額の費用が必要な上、多くの課題を抱えている。厳しい財政事情の中、防衛予算はここ数年、増え続けるが、聖域ではない。

 費用対効果を厳しく見極め、洋上イージス計画はゼロベースで見直すべきだ。敵基地攻撃能力の保有は日本の防衛政策の基本である「専守防衛」の事実上の転換であり、慎重な検討と国会での十分な議論が必要だ。

 何よりも、外交努力による脅威の除去を最優先に安全保障政策を進めるよう求めたい。

 日本を取り巻く安保環境は常に変動している。北朝鮮は朝鮮労働党創建75年の10日、大規模な軍事パレードを行い、新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)とみられるミサイルを公開した。ただ、金正恩(キムジョンウン)党委員長は演説で対米関係には触れなかった。11月の米大統領選を見守る姿勢を示したのだろう。大統領選の結果次第では、安保環境はまた変動する可能性がある。

 それに対して日本のミサイル迎撃態勢の整備計画は硬直化していないか。河野太郎前防衛相時代に地上イージスは断念したものの、導入を完全にやめたわけではなく、装備一式を護衛艦に載せるなど洋上で運用する3案を検討。岸信夫防衛相は先日のエスパー米国防長官との電話会談で、年末までに方針を示す考えを伝えた。

 米国との装備の調達契約は継続しており、さらに、洋上運用の技術的な課題の調査研究を委託するため、民間業者2社との契約も結んだ。

 しかし、そもそも迎撃態勢は十分に機能するのか。2020年版の防衛白書は、北朝鮮が迎撃の難しい「低高度を変則的な軌道で飛ぶ弾道ミサイルを開発している可能性がある」と指摘する。そのために安倍前政権は敵基地攻撃能力を持ち出してきたのではないか。

 洋上転用への改修は費用がさらに膨らむ可能性もある。地上イージスの際に政府が説明した「気象条件に影響されない24時間の運用」「陸上勤務の利便性」などの利点も洋上案では通用しない。

 結局は、米国製の防衛装備品の購入を迫るトランプ米大統領の「圧力」で導入を決めた迎撃システムを断り切れず、代替策を検討しているのが現実ではないか。

 敵基地攻撃能力の保有も課題が多い。安倍晋三前首相は退任直前に発表した談話で「迎撃能力を向上させるだけで国民の命と平和を守り抜くことができるのか」と強調し、敵基地攻撃能力を念頭に「ミサイル阻止の新たな方針」を年末までに示すよう求めた。

 菅義偉首相は「日米の基本的役割を変えることなく、憲法の範囲内で国際法を順守し、専守防衛の下、検討を進める」と述べており、談話通りに方針を決める考えだろう。だが、専守防衛も日米同盟の役割分担も確実に変化する。前のめりの議論は慎むべきだ。

2020年10月18日 無断転載禁止