それにつけても

 中秋の名月は過ぎたが、栗名月や豆名月と呼ばれる「十三夜」(今年は29日)が近づいた。「名月をとってくれろと泣く子かな」は小林一茶の有名な句。こうした俳句や短歌の上の句の後に「それにつけても金の欲しさよ」と続ける言葉遊びが江戸中期の天明年間に流行したという▼この七・七調の言葉、どんな名句の後に付けても負けないインパクトがあって面白がられたようだ。室町時代の連歌師・山崎宗鑑の発案とされ、公家に庶民感覚を伝えた逸話の中に残る。それが、風刺と滑稽が持ち味の狂歌が盛んになった天明期に「金欲し付合(つけあい)」と呼ばれ、人気を集めた▼実は天明年間は、異常気象に浅間山(長野・群馬県)の噴火が追い打ちをかけた大飢饉と、インフルエンザとみられる疫病が重なった大変な時代。5、6年で全国の人口が約90万人も減ったとされる。そんな時代を笑い飛ばそうとしたのは、庶民のたくましさだったのだろう▼翻って今のコロナ禍。生活や商売にあえいでいる人にとって「それにつけても金の欲しさよ」は、ぼやきを通り越した悲鳴だろう。政府が旗を振る各種の「Go To キャンペーン」などで重視する「経済」とは、要するに国民全体の「お金」のため▼コロナ禍が収まらない中で「それにつけても-」と傾斜を強めることには、少なからず不安はあるが、どっこい天明時代の庶民に負けてはいられない。(己)

2020年10月26日 無断転載禁止