学術会議任命拒否を考える/真理の共有と社会の進化

一般社団法人持続可能な地域社会総合研究所所長 藤山 浩

 学術会議の任命拒否問題が混迷を深めています。問題の本質は、三つでしょう。

 第一は、国民の権利侵害の問題です。6人の研究者が理由を明確にされないまま、菅義偉総理大臣から任命を拒否されています。その結果、学術会議の一員として活動する機会を奪われ、不条理な状況に置かれています。

 第二は、法律上の手続きの問題です。まずは、任命拒否という行為があり、その行為を合法的とみなす法的な解釈についての合意は後回しになっています。条文上も「推薦に基づいて任命」と明記され、従来の解釈も任命を拒否することは想定されていません。これは「法の支配」の軽視でしょう。

 第三は、法律上明記されている学術会議の「独立」性の侵害であり、「学問の自由」の問題です。学術会議が担当する科学部門では、真理の追究が第一です。したがって、推薦かつ任命の理由は、条文にあるように「優れた研究又は業績がある」ことを外れてはならず、時の政権による恣意的な任命は許されません。

 総理大臣の任命拒否を擁護する意見も出されていますが、問題のすりかえや悪質なデマが目立ちます。学術会議の在り方が問題であれば、いきなりの任命拒否ではなく、その問題を学術会議と国会に提起し、必要に応じて法律を改定すればよいのです。日本学士院という別組織と混同して高額の終身年金があるとか、中国への研究協力の危険性に至っては、全くのデマであり、流布する人々の見識と誠実さが疑われます。

 菅総理自身の説明も、「悪しき前例の打破」や「総合的、俯瞰的に判断」から始まり、「名簿を見ていない」、「出身や大学に偏り」、「既得権益となっている」など転々としています。いずれも、法律の条文にのっとったものではなく、明確な説明を拒んでいること、法的な改定や解釈合意を後回しにしたことへの納得できる根拠となっていません。

 私が、今回の学術会議の問題が深刻であると思うのは、まず国民全体で真理を共有することを目指さない限り、社会は健全な方向に進化していかないと考えるからです。近著「日本はどこで間違えたのか」でも論じたように、2010年代以降、日本の衰退が進行する中、真理の共有を阻むごまかし、隠蔽、改ざんが政治の世界で目立っています。国民生活の改善に向けた誠実な努力ではなく、あたかも前進しているかのような「やってる感」を演出する、ひどい場合には批判自体を封じ込めることに、より多くの努力が向けられる傾向が国内外で増しています。

 私たちは、選挙で全権委任しているわけではありません。主権者たる国民は、時の政権に不都合な真実も含めて、自分たちの置かれている現状を正しく理解し、今後の歩むべき道を判断する必要があります。その意味で、政府による支持者向けではなく、国民全体への誠実な説明責任は重大です。マスコミとしての伝達責任も含めて、負け戦をごまかす「大本営発表」に国民がだまされた歴史を繰り返してはなりません。私自身、地域分析をライフワークとする研究者ですが、住民と行政がその地域の真の可能性と課題を共有することこそ、地域づくりの原点と考えています。

 真理の追究を担う各分野の科学者までも、その時々の政権に「忖度」し始めたら、それは国の未来を誤る結果となります。今回の任命拒否は、そうした国民主権の礎に関わる問題ではないでしょうか。

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 ふじやま・こう 一般社団法人 持続可能な地域社会総合研究所 所長。1959年、益田市生まれ、一橋大学経済学部卒業。博士(マネジメント)。総務省地域創造力アドバイザー他、国・県委員多数。新刊に「日本はどこで間違えたのか」(河出書房新社)。

2020年11月9日 無断転載禁止