衆院憲法審査会/静かな環境で議論を

 衆院の憲法審査会は菅政権発足後初めての自由討議を行った。衆院審査会での討議は、今年5月以来となる。

 安倍晋三前首相は審査会の議論を飛び越えて、「2020年に改正憲法の施行を目指す」などと表明。このため野党が反発し、審査会の議論は進まなかった。

 国家の根幹である憲法について、その理念が実現できているのか、現行憲法では対応できない課題があるのかなどを点検し、改正の是非を議論するのは国会の責務だ。だが、議論を進めるには「改憲ありき」ではなく、各党が互いに見解を示し合う、信頼感に基づいた議論の土俵が必要だ。

 菅義偉首相が心掛けるべきなのは、安倍前首相のような首相主導の改憲論議ではなく、各党が国民の声を聴きながら真摯(しんし)に意見を交わす議論を尊重することだろう。与野党が静かな環境で丁寧な議論を積み重ねるよう求めたい。

 菅首相は先の所信表明演説で、憲法について「最終的に決めるのは、主権者である国民だ」と言明した。改憲の目標時期などには言及せず、国会の議論に期待すると述べるにとどめた。その姿勢を守るべきだ。

 ところが、自民党憲法改正推進本部の衛藤征士郎本部長は、党独自の改憲原案を年内にまとめる考えを表明している。改憲の国会発議には衆参両院で「総議員の3分の2以上」の賛成が必要だ。自民党が審査会での審議を踏まえずに独自案を提出しても、発議に必要な合意を衆参両院で形成するのは困難だろう。独断専行は慎むべきだ。

 憲法審査会では、憲法改正の手続きである国民投票の利便性を高める改正案を巡り、与野党が対立している。改正案は公選法の規定に合わせて、駅や商業施設で投票できる「共通投票所」を導入するなどの内容で、成立させるのは当然だろう。

 ただ、立憲民主党などは国民投票運動に大きな影響を与えるテレビCMなどの規制強化策の議論を主張。19日の審査会でも、自民党が改正案の早期採決を求めたのに対して、立民党はCM規制などを含めた幅広い合意形成が必要だと主張し、見解は分かれた。

 課題はテレビCMにとどまらない。5月の審査会では、インターネットを使った選挙介入の問題も指摘された。16年の米大統領選や英国の欧州連合(EU)離脱を巡る国民投票では、ネットを使って有権者の投票行動が操作されたことが明らかになっている。

 サイバー問題に詳しい専門家は、改憲案への賛否を問う「単一争点」の国民投票は特に警戒が必要だと指摘する。07年の国民投票法の成立時には想定されなかった課題だ。これらも含めて早急に議論すべきだろう。

 憲法を巡る課題は最近も相次いでいる。19日の審査会でも、菅首相による日本学術会議の会員候補の任命拒否が「学問の自由」を侵害するとの指摘や、野党が憲法の規定に基づいて要求した臨時国会の召集に安倍前政権が応じなかった問題などが提起された。

 自民党は戦争放棄を定めた9条の改正や大規模災害時の緊急事態条項の新設など4項目の改正を主張しているが、課題はそれだけにとどまらない。各党が考える問題点を提示し合い、改憲の是非を議論する審議も、国民投票法の改正案と並行して進めるべきではないか。

2020年11月22日 無断転載禁止