色眼鏡を外して

 円柱のガラス容器に入った液体は、混じり気のない真水のように無色透明に見えた。先月、廃炉作業が進む東京電力福島第1原発を視察した。液体は原発で発生する汚染水を浄化した後に残る放射性物質トリチウムを含んだ処理水だ▼東電は敷地内に約137万トン分の保管用タンクを準備するものの、来年夏には容量が限界に達するという。そこで政府は昨年10月にも処理水の海洋放出を決定する方針だったが、地元漁業者らの反対を受け、結論を先送りしている▼「断固反対。(放出するなら)人知れず、そっと流してほしかった」。悲痛な訴えを漁業者から直接聞いた。懸念するのは漁獲量への影響ではなく風評被害。あの原発事故から10年近くたち、試験操業から本格操業への移行が見えてきた今、悪い風評は死活問題になるからだ▼現地では相反する声もあった。「どこの原発も流している。何の問題があるのか」。確かにトリチウムは人体への影響は極めて少ないとされ、運転中の原発からも放出されている。肝心なのは人々の不安を払拭(ふっしょく)し、悪い風評を招かない丁寧な説明だろう▼政府や東電を擁護するつもりはない。ただ、確かな根拠も持たず、「危ない」という漠然とした世間のムードに流されていては真相を見誤りかねない。原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場問題も同様だろう。色眼鏡を外して難題に臨みたい。(健)

2021年1月12日 無断転載禁止