レッツ連歌<2021年新春特集>(下房桃菴)・1月14日付

 あけましておめでとうございます。

 今年の前句は正月らしくない、とお考えかもしれませんが、実は「銀座いろは歌留多(かるた)」というものから借りてきました。

 「銀座いろは歌留多」は、株式会社明治のレトルトカレーのパウチ(中袋)に印刷されております。このカレーは、1930(昭和5)年に発売された「キンケイ・ギンザカレー」の復刻版だそうで、「歌留多」もそれに合わせて、昭和初期の銀座を彷彿(ほうふつ)させる文句と絵柄で統一されております。

(挿絵・株式会社明治ホームページより)
 中でも私は「も」の札が気に入っておりまして、このたび、レッツの前句にぜひお借りしたいとお願いしたところ、早速ご快諾いただいた次第です。

 なお、この「歌留多」は、明治のホームページでもご覧になれます。そちらではこの札について、次のようなコメントが添えられています。

 カフェーと前後してできたバーには女給はなく、洋酒の味ひとすじに、医者や大学教授、羽振りのよい文士などが一杯のカクテルに心を傾けました。こうした銀座のダンディズムには、誇り高いバーテンダーたちが一役買っています。

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 この他、同じホームページより、「歌留多」の文句とコメントを、二、三ご紹介しておきます

 はなよりアイスクリン
 昭和のはじめの銀座で「君、資生堂でアイスクリームでも」といえば、最もハイカラなモボ、モダンボーイの誘い文句。他にもソーダファウンテンのエスキモーやウーロン茶の台湾喫茶店など、オシャレなお店には事欠かなかったのです。

 けふできた「鞄(かばん)」という字めずらしく
 明治天皇に「あの字は何と読むのか」と聞かれたという逸話のあるタニザワ鞄店の看板の「鞄」の字は、店主の発案でした。輸入品の高級革鞄を置いた先駆的商店であり、新しい漢字を作り出すほど斬新気鋭の商売ぶりだったよう  です。

 夜目遠目銀座の街燈
 明治7年のガス灯に始まる銀座の街灯は、闊歩するモガたちの表情を夜も明るく引き立てました。現在の銀座の街灯も、「美人に見える」と一部で評判。これは現代の照明設計のたまも  のです。

 どうでしょう。お楽しみいただけましたか。

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 もの言わぬバーテンダーが生き字引

新年祝う干支(えと)の置物     (米子)板垣スエ子

根負けしてる刑事コロンボ      (出雲)飯塚猫の子

振る音で知る虫のいどころ      (出雲)はなやのおきな

マスクのごとく蓄えたヒゲ      (江津)三浦 秀和

歴代知事の引き継ぎの店       (江津)花田 美昭

ウインク一つで甘いカクテル     (出雲)平井 悦子

東大王に知恵を授ける        (松江)相見 哲雄

俺も田舎を出ればよかった      (雲南)福場 仁一

いつもあの娘(こ)を連れて通った  (大田)塩毛 千介

神になったり仏になったり      (出雲)岩本ひろこ

客の好みはぜんぶ覚えて       (松江)庄司  豊

始終笑顔で店は繁盛         (益田)兼子 哲彦

心の傷をいやすバアちゃん      (江津)江藤  清

二時間ドラマ解決を見る       (松江)高木 酔子

廃線の駅の駅前のパブ     (兵庫・明石)折田 小枝

卒寿を前に矍鑠(かくしゃく)として (出雲)行長 好友

あまた見てきた夜の政治家      (松江)今井 ヒロ

この道一筋黄綬褒章         (飯南)塩田美代子

スペイン風邪も知ってるという    (松江)水野貴美子

存在感のある人になれ        (江津)大岩 郁夫

雇われママは三人目です       (松江)鈴木 久子

明治大正昭和平成          (雲南)野 の 花

英国仕込みさすが三ツ星       (江津)星野 正子

暗証番号思い出してよ        (松江)山崎まるむ

オレの結婚記念日知ってる      (松江)佐々木滋子

レモンサワーが頼みづらくて  (沖縄・石垣)多胡 克己

蝶(ちょう)ネクタイが黒く光って  (出雲)岡  佳子

飛沫防止に手話と筆談        (松江)野津 重夫

雑煮のことはあの人に聞け      (松江)川津  蛙

刑事コロンボまた訊(き)きにきて  (益田)可部 章二

ドラマの中で光る存在        (浜田)松井 鏡子

忖度(そんたく)できぬ元お役人   (安来)根来 正幸

歴史を語る古き建物         (安来)木村 修平

しゃべりたくても客のない今     (美郷)山内 澄子

ごっつぁんですと髷(まげ)の連中  (浜田)勝田  艶

落語全集ひもといてみる       (浜田)三隅  彰

ずらっと並ぶジャズのレコード    (松江)植田 延裕

知ったかぶりの客恥をかき      (江津)星野 礼佑

この人にだけは嘘(うそ)がつけない (益田)吉川 洋子

コロナ自粛で閉店の危機       (出雲)放ヒサユキ

軽食に出たスパイスが効き      (松江)森  笑子

武士の血筋で元は校長        (益田)竹内 良子

お店のママはスマホ検索   (東京・八王子)藤江  正

恋の指南もお手のものです      (出雲)櫛井 伸幸

二人の仲をそっと見つめて      (益田)石田 三章

お屠蘇(とそ)グイグイ大トラとなる (松江)田中 堂太

すこし白髪が増えた横顔       (益田)黒田ひかり

歴代総理お忍びで来る        (松江)小谷由紀子

目を閉じて聞く三味線音楽      (松江)岩田 正之

西部の歴史今も受け継ぎ       (江津)井原 芳政

オレの好みのレコードに替え     (松江)花井 寛子

踏み出す勇気もらうヒロイン     (出雲)野村たまえ

蝶ネクタイがプロのプライド     (松江)勝部 政子

見て見ぬフリも接客のコツ      (松江)加茂 京子

意外と筆まめ日記びっしり      (美郷)源  瞳子

興信所よりこわい存在        (浜田)米谷 昌子

理想のタイプと娘惚(ほ)れ込み   (雲南)錦織 博子

ゆく年くる年想い重ねて       (松江)宮本 邦子

気になる過去は聞かぬこととし    (浜田)山崎 重子

宿題持っておじちゃんとこ行こ    (浜田)滝本 洋子

ワザは盗めと師から教わり      (大田)秀   峰

悩み抱えて通うホステス       (益田)石川アキオ

よい句浮かぶと止まるシェーカー   (松江)持田 高行

社長講師に呼んでください      (美郷)源  連城

健さんに似たかっこいい人      (雲南)渡部 静子

夜の教授と人に呼ばれて    (埼玉・所沢)栗田  枝

未来を託すAIロボット       (松江)澄川 克治

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 「心の傷」というと、どうしても男女関係が思い浮かびますが、この「バアちゃん」、なかなかかわいいバアちゃんですね。

 「卒寿を前に矍鑠」としている人はいくらもありますが、「スペイン風邪」がはやったのは、およそ100年前。それを覚えているとなると、今は少なくとも110歳ぐらい? 「明治大正…」と生き抜いてきた人にちがいない。めでたいことではありますが、現役のバーテンダーとはとても思えません。やっぱり、昭和初期という設定でしょうか。

 前句の「もの言わぬ」は、口数が少ない、ないしは、口が固いというほどの意味ですが、いやいや、そうじゃない。ほんとはすごくおしゃべりな人かも、と考えた句がありました。コロナ禍を詠んだ3作品。「手話と筆談」「客のない今」「閉店の危機」―、意外な発想が目立ちました。

 異色なのは、「宿題持って…」。もちろん、おじちゃんの職場じゃなくって、自宅に行くのでしょうが、かわいいですね。おじちゃんも今日はメロメロ。

      ◇

 次は、

  大井川越す大名行列

に五七五の付句です。

 大名行列はどうして大井川を渡ったのだろうと、前々から私は不思議に思っておりました。で、今回ちょっと調べてみると、おもしろい話がいっぱい出てきました。

 一例を挙げると、川の流れを緩やかにするため、上流に船を並べたり、上流と下流に人足を立たせたりしたといいます。

 大名行列ではありませんが、1863(文久3)年に描かれた一英斎芳艶の浮世絵「頼朝公大井川行列図」には、上流に人垣を並べ、下流には布幕を張り巡らした中央を、頼朝(実は徳川将軍家茂)を載せた駕籠(かご)をそのまま蓮台に載せ、その蓮台を百数十人の裸の人足が担いで渡る様子が描かれております。その後ろは裃(かみしも)を着けた侍たちが従っているのですが、これがどうも肩車されているようにも見えない。正装をしたままで水に浸かるなんてことがあったのでしょうか。まさか袴(はかま)は着けていないと思うのですが、さあ、どうでしょう。

 (インターネット「大名行列はどのように「六郷渡」を渡ったか」による)

 ネットには怪しげな情報もあるかもしれませんが、でもそれは気にすることはありません。私たちの目的は、楽しい付句を作ることです。そのためには怪しげな情報のほうがよいヒントになることさえ、十分ありうることです。

 実は今回に限りません。今年からみなさん、どんな前句が出ても、その前句のことばを、まずはネットで検索してみましょう。動画があれば、もちろんそれも見る―。きっと思わぬ収穫があるはずです。入選率も大幅アップ!

 パソコンが使えないというかたも、今年こそマスターしてください。人様だけがいい思いをするなんて悔しいじゃありませんか。

(島根大名誉教授)

2021年1月14日 無断転載禁止

こども新聞