バイデン米大統領就任/再び理想の灯をともせ

 憎悪と対立のトランプ時代が終わったというのに、バイデン米大統領の就任式は沈痛な雰囲気に包まれた。米国が直面する国難の大きさが楽観的なムードを消してしまったのだ。米国を復活させ、再び理想の灯をともせるのか。史上最高齢78歳で就任したバイデン氏にその使命が託された。

 「国民の団結のために私は全霊を注ぐ」という就任演説の言葉は、そのためにこそ大統領になったという信念を感じさせた。その認識は正しい。後は長い政治経験で培った信頼感、他者への共感を強みに、敵対勢力との和解を実現するだけだ。

 就任式の沈痛な雰囲気は、新型コロナウイルスの感染症で40万人超が犠牲になるという歴史的な試練を意識させたためだ。大統領としての最初の仕事は就任演説の場で犠牲者への黙とうを呼びかける行動だった。

 超大国でこれだけの被害が出たのは、国民が所得によって受ける医療に大きな差があることに起因する。格差社会が生んだ悲劇である。

 格差は1980年代から始まった富裕層減税、グローバル化、IT化で進んだ。米国の上位1%が占める総所得は下位50%の総額を90年代半ばに追い越し、現在ははるかに多い。党派にかかわらず政府は富の偏在を政策で助長してきた。そしてコロナのまん延が格差に輪をかけた。これでは国民の一体感は失われる。政策の大転換が求められる。

 就任式は6日に起きた議会乱入事件の再発を懸念し厳戒態勢がとられ、参加者も大幅に制限された。世論調査では共和党支持者の7割がバイデン氏の当選は正当ではないと答え、分断は深い。

 トランプ氏は新旧大統領が就任式に出席する慣例を破って欠席し、退任スピーチで政治運動の継続を強調し「必ず戻ってくる」と宣言した。過激派はトランプ氏をあがめ続けるだろう。

 バイデン政権の成否の鍵は、トランプ支持者の中の穏健派といかに対話を進め、その不満をくみ取るかにある。就任演説で強調した「(党派を超えた)全ての米国民の大統領」を言葉に終わらせず、実現してほしい。

 国際社会での威信回復は喫緊の課題だ。バイデン氏は早速、気候温暖化対策のパリ協定への復帰を決定し、国際協調への回帰を鮮明にした。トランプ氏が背を向けた世界保健機関(WHO)とも協力を復活する。

 世界が振り回されている対中国政策は「競争と協調」の原則で臨む。バイデン氏はトランプ時代の全面的な敵対政策を修正し、対話を続けながら中国に行動の変化を強く促す姿勢が求められる。

 難題が並ぶ新政権だが、民主主義再生の兆しが見えてきた。コロナ禍の異例の大統領選は慎重な集票作業の末に当選者を確定させた。議会乱入事件の衝撃は共和党内で対立激化への反省を生み、トランプ氏の弾劾裁判では一定数の共和党上院議員の賛成が想定されている。

 米国の弱体化は日本にとって避けたいことだ。アジアの平和と安定のためには強力な米国の関与が不可欠だ。安全保障や経済などの日米関係だけでなく、中国や朝鮮半島などの地域情勢、感染症対策や貿易、環境などの国際的なルールづくりなど日米が協力すべき分野は多い。同盟重視を掲げる新政権に日本との連携を働き掛けていきたい。

2021年1月22日 無断転載禁止