ゲレンデに恋して

 音楽というのは不思議なもので、たった1フレーズを聴いただけでふっと流行していた当時を思い出したり、季節の移ろいを感じたりする。冬の歌といえば、やはりシンガー・ソングライターの広瀬香美さんだ▼デビュー直後の1993年に『ロマンスの神様』が大ヒット。スキーブーム真っただ中の90年代初頭、有名スキーメーカーのCMソングとなったことで「冬の女王」と言われるように。続く『ゲレンデがとけるほど恋したい』と合わせ、冬とスキー場の定番曲として流れるようになった▼スキー人口減少を受け、彼女の「指定席」とも言えるスキー場が山陰でも苦境に立つ。三井野原スキー場のリフトを運営する島根県奥出雲町が町営リフトを廃止し、今季限りで運営から撤退する方針を固めた。民間が営業を続けるが、簡易リフトだけになる▼緩斜面で家族連れに人気の三井野原には、筆者もJR木次線で近所の家族と、スキー研修で同級生と訪れた。そりで遊んでいてもスキーヤーに邪険にされることもなく、広瀬さんの歌より、童謡『雪』の「雪やこんこ」が似合うアットホームなスキー場だった▼インターネットの発達によりボタン一つで地球の裏側のことも分かるようになった。それでも、雪の冷たさは本物の雪を触らないと分からない。だからこそ、広瀬さんの伸びやかな高音を、あの日”恋した”真っ白なゲレンデで聴きたい。(目)

2021年1月26日 無断転載禁止