2021年12月11日、出雲ドームを会場に「プロ野球現役選手によるシンポジウム『夢の向こうに』in島根」が開催された。プロ野球選手から直接指導を受けられる、高校球児にとっては夢のような企画で、島根県での開催は2006年以来。県出身の現役選手も複数来場し、球児たちに熱く指導した。現地で取材したスポーツライターの井上幸太氏が当日の様子をレポートする。

プロ・アマ間の壁

 現役のプロ野球選手やプロ野球OBの高校球児指導は通常、様々な規定の関係上難しい。そんな中、プロ野球選手が高校球児を直接指導できる数少ない場のひとつが、日本プロ野球選手会が実施する「プロ野球現役選手によるシンポジウム『夢の向こうに』」だ。

 徐々に緩和が進んでいるものの、野球界におけるプロとアマの間には依然として大きな隔たりがある。

 有名なのが、日本学生野球憲章が第12条で定めている「プロ野球選手、プロ野球関係者、元プロ野球選手および元プロ野球関係者は、学生野球資格を持たない」という規定だ。「プロアマ規定」の通称でも呼ばれるこの定めがあることで、かつてはプロ野球の現役選手、元プロ野球選手が、高校球児を指導することは不可能だった。

 そこから1984年に教員として10年勤務した元プロ野球選手の高校野球指導が認められ、94年に必要な勤務歴が5年に短縮、97年には2年にまで短縮された。

 そして2013年に教員としての勤務歴が必須ではなくなり、プロ側、アマ側がそれぞれ設ける研修会に参加し、適正検査を受けることで指導資格の復帰が可能となった。

国学院久我山高の選手を指導するイチロー氏

 21年末に国学院久我山(東京)、千葉明徳、高松商(香川)などへの訪問指導が話題となったイチロー氏の高校球児の指導が可能となっているのも、この制度改正があったためだ。

 ただ、現役選手の高校生指導に関しては、依然として大きな制限がある。

 2005年に現役選手が、シーズンオフに自身の母校で練習をすることが可能になったが、「ノックをするなどの指導はできない」と明文化されている。母校の後輩たちへの自己紹介や激励は許されているものの、技術的な指導を伴う会話は不可。最高峰でプレーする憧れの先輩から技術を学ぶことはできないのだ。

メッセージ集から発展したシンポジウム

 現役選手の母校での自主トレすらも解禁されていなかった2003年、日本プロ野球選手会が、「せめて高校球児たちに激励のメッセージだけでも伝えたい」と作成したメッセージ集があった。

 選手たちが直筆で球児たちへの思いを綴ったメッセージ集は、選手会の予想以上に反響を呼び、現役プロ選手が、現役の高校球児を対象に技術を伝えるシンポジウムの立ち上げへと発展(日本学生野球憲章第13条にも「日本学生野球協会の承認を受けて、学生野球の発展を目的とした講習会、シンポジウムなどであれば、学生野球資格を持たない者とも交流できる」と明記されている)。2003年12月に近畿地区の高校151校、総勢2459人の参加者が大阪国際会議場に詰めかけ、第1回が開催された。前出の小冊子のタイトルから「夢の向こうに」と名付けられたこのシンポジウムは、2004年オフから定例イベントとして定着。毎オフに6都道府県を順々に訪れる形となった。

 島根で開催されるのは、今回が2度目。前回開催時は、2021年まで日本ハムを率いた栗山英樹氏がコーディネーターを務め、浜田商出身で広島の主力投手だった佐々岡真司、浜田高出身でソフトバンク投手の和田毅、当時ルーキーだったオリックスの平野佳寿らの現役選手が参加した。
 

高校生に投球フォームの指導をする佐々岡真司投手(右から2人目)。右は和田毅投手=2006年12月 松江市殿町、島根県民会館

 前回は松江市の島根県民会館が会場で、檀上に上がったコーディネーターと選手たちが、自身の技術論を講義形式で伝える側面が強かった。2度目の今回は、出雲市にある出雲ドームが会場のため、グラウンドレベルでの“指導”が可能となり、前回以上に細かく技術や感覚を伝えられる場となった。

島根に縁のある3選手も参加

 今回コーディネーターを務めたのは、浜田市出身で、浜田で1971年の春夏連続で甲子園出場も果たしている近鉄OBの梨田昌孝氏、珍しい長髪と巧みなグラブさばきでロッテファンを魅了していた水上善雄氏、広島で左強打者として鳴らし、引退後はコーチとして手腕を発揮した浅井樹氏の3名。

挨拶をする梨田昌孝氏

 現役選手では、雲南市出身で開星時代に3度甲子園の土を踏んだ阪神の糸原健斗、京都府から石見智翠館に野球留学をして、島根で3年間を過ごした巨人の戸根千明、松江市出身で開星時代から大型遊撃手として注目されていたDeNAの田部隼人の、県に縁のある3選手ら総勢10選手が来場。また、ここに加えて、県関連の4選手がオンライン形式で参加した。参加全選手は以下の通り。

【投手】
戸根千明(巨人)
松井裕樹(楽天)
ケムナ誠(広島)
森浦大輔(広島)

【捕手】
植田将太(ロッテ)
梅林優貴(日本ハム)

【内野手】
糸原健斗(阪神)
田部隼人(DeNA)

【外野手】
佐野如一(オリックス)
山口航輝(ロッテ)

【オンライン参加】
和田毅(ソフトバンク)
福山博之(楽天)
梶谷隆幸(巨人)
水谷瞬(ソフトバンク)

 受講者側は、投手、捕手、内野手、外野手の4つのカテゴリーから1名ずつ、1チーム計4名が参加した。

 投手は、実際の投球指導と広島でアスレチックトレーナーを務める梶山聡司、信末洋希の両氏によるトレーニング指導をローテーションで受講し、野手は午前中に守備、走塁、バント、午後にロングティーを打ちながらの打撃指導を受ける形で進められた。

 捕手組の守備指導では、立正大淞南から参加していた谷川翔太が、実兄・唯人のロッテのチームメイトでもある植田将太から熱のこもった指導を受ける場面も実現した。
 

植田将太(ロッテ)の指導を受ける谷川翔太(立正大淞南)

目をくぎ付け プロの技術

 故郷に戻った糸原健斗も、実演を交えながら終始精力的に高校生を指導した。打撃指導では、自身もバットを手に取り、ティー打撃を披露。軽いスイングながらも鋭い弾道でネットを揺らす打球に、高校生たちの目が釘付けとなっていた。

ティー打撃を披露する糸原健斗

 糸原の恩師である開星の野々村直通(70)は、スタンドから教え子の雄姿を見守り、目を細めながらこう語った。...