インタビューに答える俳優の善知鳥いおさん=4月、東京都港区
                
              
            
   インタビューに答える俳優の善知鳥いおさん=4月、東京都港区 

            
              
                
                   2013年に撮影された当時の善知鳥さん
                
              
            
   2013年に撮影された当時の善知鳥さん 

            
              
                
                   2014年、初舞台終了後の善知鳥さん
                
              
            
   2014年、初舞台終了後の善知鳥さん 

            
              
                
                   2015年の舞台に出演当時
                
              
            
   2015年の舞台に出演当時 

            
              
                
                   出演映画の舞台挨拶当時の場面
                
              
            
   出演映画の舞台挨拶当時の場面 

            
              
                
                   インタビューに答える俳優の善知鳥いおさん=4月、東京都港区
                
              
            
          
            
              
                
                   2013年に撮影された当時の善知鳥さん
                
              
            
          
            
              
                
                   2014年、初舞台終了後の善知鳥さん
                
              
            
          
            
              
                
                   2015年の舞台に出演当時
                
              
            
          
            
              
                
                   出演映画の舞台挨拶当時の場面
                
              
            

 映画や舞台などで活躍する俳優の善知鳥(うとう)いおさんは20歳の時、性暴力に遭った。憧れの芸能界の切符をつかみ、上京した直後。加害者は信頼していた事務所のマネジャーだった。「成人だから自己責任」と言われ、誰にも助けてもらえないと悩み抜いた。その経験を3月、ブログで公表。理由は「被害に遭ったことも含め、自分を愛して生きるため」。さらに芸能を目指す若い女性に、自分と同じ苦しみを経験してほしくないと考えたからだ。

 4月から成人年齢は20歳から18歳に引き下げられたが、善知鳥さんは自身の経験から「自立した大人と同様の判断は10代にはできない。大人が若い世代を守る仕組みが必要」と訴える。(共同通信=清鮎子)

 ▽「言葉による洗脳」の恐怖 

 善知鳥さんは青森市出身。芸能の世界は幼い頃からの夢だった。

 「物心つく頃から憧れがあって、中高生になると周りに内緒でオーディションを受けていた。学校にうまくなじめず、テレビや雑誌で芸能界に触れるのが癒やしで、とても楽しかった」 

 高校を卒業後、仙台市の医療系の専門学校へ。しかし、どうしても夢を諦められず、夜行バスで東京に通い、芸能事務所などのオーディションを受け続けた。当時は「20歳未満」などと年齢制限がある場合が多く、「これが最後のチャンス」と決めていた。

 約40社に応募し、2013年にようやく合格。「すごい奇跡が起こったと思って。でも喜んだのはつかの間。夢が現実になったことで、いきなり不安と責任感のほうが大きくなった」

 内情が分からない芸能界、知人のいない東京で頼りにしたのが、年齢が20歳以上離れた男性マネジャー。1次面接で初めて会い、「話しやすい人」という印象を持った。合格後は電話でやりとりするようになった。

 後になって振り返れば、「言葉による洗脳」は電話から始まっていた。例えば「芸能界は怖いんだから俺が守ってやる。それが俺の仕事だから」「何をするにも連絡相談しろ、大変なときに守ってやれなくなる」「俺を頼れ、俺の言うことは絶対」「かわいい大事なタレント」「君が合格した裏に落ちた子がいる」などと言われた。「感謝したし、信用してしまっていた」

 性加害は上京したその夜から始まった。マネジャーと2人でカラオケに行くと、抱きしめられ、キスを迫られた。

 「すごくパニックだったけれど、帰り際に『からかっただけだよ』って言われた。『からかっただけか。びっくりした私がおかしいのかな』って思ってしまった」

 ▽拒んでも関係を強いられたのに「自己責任」

 数日後、マネジャーは善知鳥さん方を訪れ、「体のサイズを測る」と言って部屋に上がり込んだ。勇気を出して拒んだが、関係を強いられた。「慕っていたし、尊敬もしていたけれど、性的な関係になることは一切望んでいなかった」

 善知鳥さんをさらに絶望させたのは、マネジャーが放ったひと言だった。「20歳は大人だから自己責任。それ以下は子供だから手を出さないんだ」。「成人してしまった私は、誰にも助けてもらえないだ」と思い込んだ。 

 性暴力はその後も1年間続いた。マネジャーは恋愛禁止どころか、友人をつくることすら禁じ、プライベートも含めて全ての行動を報告するよう命じた。「1カ月で7キロやせろ」とも言われ、摂食障害に追い込まれた。会うたびに長時間説教され、自尊心がそぎ取られていく。「芸能界は怖いからいつ誰が裏切るか分からない。俺だけを信じろ」と言われ続けた。

 「他人とどう接したらいいか分からなくなり、誰にも相談できなかった。マネジャーの言葉で自己肯定感がどんどん下がって、相手も汚いけれど、こんなことになっている自分も汚いってずっと思っていた」

 当時の心情をつづったメモ帳にはこう記している。「私は子供だよ 思ってることを伝えても言いくるめられて終わりだよ やりたいだけ それだけ」「苦しい 気持ち悪い 何してんだろ」

 立場の差や力関係を利用し、相手の抵抗を抑圧する手法は「エントラップメント」と呼ばれる。生理的な嫌悪はあったが、マネジャーに依存していく状態に陥った。

 「マネジャーが言っていることとやっていることの矛盾にすごく苦しんだけれど、この人がいなかったら芸能界に入れていないし、東京で他に頼る人もいない。俳優として食べていく、一生この事務所でやっていくと思っていたので選択肢がなかった」

 ▽共演者のひと言が変えてくれた

 地獄のような状況は1年後、やっと変化し始める。初めてつかんだ舞台の仕事でのこと。共演者たちが、善知鳥さんにいつも付き添って横柄な態度を取るマネジャーを見て「変だよ」と教えてくれた。

 善知鳥さんが「これ普通じゃないんですか」と問い返すと、共演者は「違う違う」と否定。そこでやっと、この状況がおかしいと気付くことができた。その後、相手からの誘いに対し「ばかにしないでください。事務所に言いますよ」とメール。関係を断ち切ることができた。

 ただ、1年に及ぶ被害は善知鳥さんの心身に深いダメージを与えていた。芸能の仕事に打ち込んでいる時以外は、毎秒のようにフラッシュバックが襲う。常に不安で苦しく、緊張し続け、独りで部屋で泣いていた。「うつ」のような状態になり、人を信じることもできなくなった。

 「もともと人を信じやすかったけれど、そのせいでこんな目に遭ってしまった。怖くて身動きが取れなくなり、殻に閉じこもらざるを得なかった。殻から出たらぐちゃぐちゃになってしまいそうで」

 洗脳状態や苦しみから抜け出すのを助けてくれたのは、同じ芸能の世界で働く第三者だった。

 2016年まで4年間続いたフラッシュバックが終わったのは、共演者の言葉がきっかけ。演技に関するワークショップで、恋人役の男性に、お互いの一番の秘密を打ち明けるよう指示された。意を決して泣きながら告白すると、男性は「そいつ最悪だね」と言った。

 「とてもびっくりした。20歳は自己責任と言われていたので、それまでは自分が悪いって信じて疑わなかった。でも、そのひと言で違うんだって分かって、フラッシュバックがなくなった」

 ワークショップでのこの指示は、一歩間違えればさらに精神的なダメージを与える危ういものだったと言える。ただ、この時の善知鳥さんにとっては偶然にも良い方に転がった。

 移籍先で新しく担当になった女性マネジャーにも被害を打ち明けた。女性は真剣に耳を傾け、「つらかったね」と共感してくれた。洗脳状態が解けたと感じた。

 ▽「怖い」業界にいた信じられる人たち

 その後もトラウマはあったが、次第に和らいでいった。人間不信を取り除くため、SNSに自分が考えたことをストレスを抱えながらも書き込んだり、あえて「空気を読まずに」人と会話をしたりした。

 信頼できる共演者や、尊敬できる監督やプロデューサーらと知り合えたことも大きかった。「怖いって思っていた業界に、素晴らしい人たちがいることを目の当たりにして、人を信じる最後の『一押し』になった。出会った人たちのおかげで、トンネルを抜けられたなと思う」

 そして3月、自身が受けた性被害を、名前を出してブログにつづった。

 「世間の人に実情を知ってもらうのもあるけれど、一番は自分のため。本当の意味で自分を愛することができなかったけど、傷ついた経験も含めて自分を愛しているという意味を込めた。書くことは、この先、生きていくためのけじめをつけるために必要不可欠なことだった」

 ブログを読んだ周囲は「たいへんだったね」「気付いてあげられなくてごめんね」と声をかけてくれた。これまで人を信じられないことで、親密な関係を演じるときに壁を感じてきたが、悩みを相談してきた芸能関係者は「ようやく善知鳥さんの俳優としての準備が整ったね」と話しくれた。

 ▽成人年齢引き下げの怖さ

 善知鳥さんが今回、取材に応じて自身の経験を語ったのは、これから芸能の世界を目指す人、さらに、芸能界に既に身を置いている人に現実を知ってもらいたいと考えたためだ。

 3月以降、俳優らが映画界の性暴力被害を告発するケースが相次いでいる。作家や映画監督らが、性加害の撲滅を訴える声明も発表した。

 一方で、4月から民法の成人年齢が18歳に引き下げられた。未成年には、例えばアダルトビデオ(AV)に出演する契約を結んだとしても、親の同意がないことなどを理由に後から取り消せる「未成年者取り消し権」がある。撮影後であっても作品の販売停止や回収ができるため、制作側は損害を受けないよう、出演勧誘の抑止になってきたとされる。その権利が18歳、19歳はなくなってしまった。

 善知鳥さんが最初に性暴力に遭ったのは20歳。当時を振り返り「精神的に未熟で、決して大人ではなかった。精神的に自立した成人同様の判断が、10代にできるとは思わない。一時の感覚や気持ちで一生映像が残り続けるAVに出演し、一切後悔しないで済むのは難しい」と話す。

 10代の少女が、大人の説得にあらがうのは想像以上に難しい。AV業界の関係者はスカウトする際、「アイドルやモデルにさせる」と言って近づき、「有名になるための手段」と言ってAV出演を迫る手口が、被害者の支援団体には寄せられている。

 善知鳥さんは「多感な時期に優しく親身になってくれる大人がいたらなつくのは自然だし、当然。また、契約書をどこまで読み込めるのかとも思う。目先のモデルになりたい、俳優になりたいという憧れの気持ちで急いでサインすることはありうる」と指摘する。

 ▽「肌の露出は心身への影響が大きい」

 俳優の経験から、「非日常的」な現場の雰囲気による危険性も想像したという。

 「控室ではスタッフから至れり尽くせりの対応をされ、撮影中は少なからずアドレナリンが出て、AV出演を望んでいたように思い込んでしまうかもしれない。でもカメラから外れて日常に戻った途端、後悔することだってある」

 善知鳥さんはAVに出演したことはないが「肌の露出は心身への影響が大きい。露出は『覚悟』や『役者魂』で片付けられてきたが、慎重に扱うべきだ」と強調する。

 芸能界を目指す若い人たちには、こう助言する。「仕事や契約の場には信頼できる大人を伴い、その場で決めないこと。マネジメントや活動方針について説明してもらい、契約期間も確認すると。長期間契約してしまい、辞めたくても辞められなくなったケースもある」

 ▽性暴力のない業界にするために

 善知鳥さん自身は現在は事務所に所属せず、フリーランスとして活動している。「いろんな選択肢があるから、焦らないでほしい。事務所に所属しなくても、エージェント契約を結んだり、個人で事務所を立ち上げたりすることもできる。事務所に所属していても個人事業主と思って。『助けてもらえる』『守ってもらえる』と任せっきりにしないほうがいい」

 それぞれが個人事業主のような芸能関係者は、連帯しにくい。加えて、イメージが大切なため、被害に遭っていても声を上げづらいという難点がある。過去に一緒に仕事をした経験があるなど、性暴力加害者と交友関係があれば、かばう傾向もあるという。

 善知鳥さんが望むのは、被害者が安心して相談できる第三者機関の設置だ。独立したチェック機能を持つことが必要だと考えている。

 性暴力のない業界にするため、善知鳥さんも行動しようと模索している。「私はいっぱい傷ついてきたし、確かにひどい大人もいた。けれども、誇りを持って仕事をしている人や、芸術に真摯に向き合っている人たちとの出会いのおかげで今がある。業界全体が性加害が起きない環境を目指すことを共通認識とし、一人一人が人間として大切にされ、安心して働ける環境になってほしい」