世事抄録 木彫りの豚

 元徴用工訴訟問題や韓国艦船によるレーダー照射問題で日韓関係が大きく冷え込んでいる。日韓や日朝のニュースが流れるたびに、いつも市民レベルではどう考えているのだろうかと考えてしまう。

 大阪にいたころ、在日2世の友人がいて、よく鶴橋の焼き肉店で飲んだ。いつもスーツ姿で待ち合わせ場所に先に来ていた。おごられたらおごるというきれいな飲み方で誰よりも義理人情に厚かった。

 10年前に竹島の北西にある「ウルルンド」(鬱陵島)を訪れる機会があった。移住して島で亡くなった祖父母の慰霊が目的だった。

 ある晩、土産物屋に立ち寄ると、特産の木彫りの豚が目に留まった。豚は韓国や中国で子孫繁栄につながり幸せを呼ぶとされる。体長20センチ、高さ10センチの見事な一品で、2万5千ウォン(2500円)をはたいて耳を立てた雄を選んだ。

 島を離れる日、再び店に立ち寄った際、通訳が「豚の彫り物を買った人はいますか」と尋ねた。名乗り出ると、女性店主は「韓国では雄と雌の対で幸せが来ると言われています。幸せを祈って雌を差し上げます」と言った。

 祖父たちと親しかった長老には親身になってゆかりの地を案内してもらった。情が通い合う体験を大阪でも現地でも何回も味わった。木彫りの豚は、政治の荒波に洗われる市民レベルの日韓関係の行く末を問い掛けてくる。

 (出雲市・呑舟)

2019年2月28日 無断転載禁止