ボルトン米補佐官解任/直感外交に、なお警戒を

 トランプ米大統領の側近の中では最も対外強硬派だったボルトン国家安全保障問題担当補佐官が解任された。ボルトン氏はイラク戦争を主導した新保守主義者(ネオコン)に近く、その解任で米国が中国、北朝鮮、イランなどを相手により柔軟な交渉路線に移行すると期待したい。

 ただ十分な検討をしないトランプ流の直感外交は依然続くとみられ警戒を続けるべきだ。来年11月の大統領選挙に向けて米国民にアピールできる手柄を狙うトランプ氏は、日本など同盟国や世界への負の影響を考えずに独善的な外交を加速する懸念がある。

 ボルトン氏は、ことごとくタカ派政策を唱えた。今年6月にはイランへの軍事攻撃を提唱し、北朝鮮には厳しい非核化要求を突き付け、米朝首脳会談でもトランプ氏に譲歩しないよう助言した。反政権運動が起きたベネズエラでも政権転覆を画策した。

 ロシアと結んでいた中距離核戦力(INF)廃棄条約の破棄を唱え、米国の軍拡を主張、香港のデモでは中国政府は強権的だと非難してきた。

 ボルトン氏の解任で過度に緊張をあおるような対外政策は抑制されるとみられ、歓迎したい。

 だがトランプ氏に苦言を呈する高官がいなくなったことは気にかかる。政権発足時は国際派と強硬派が対立し、両派ともトランプ氏に異論を唱えた。その後国防長官だったマティス氏ら国際派が次々と解任され、強硬派のボルトン氏も政権を離れた。

 残るのはペンス副大統領、ポンペオ国務長官、ムニューシン財務長官らトランプ氏の機嫌をうかがう高官ばかりだ。トランプ氏の直感外交をいさめる人物がいない。

 日本にとっての懸念は、トランプ氏が対北朝鮮外交で手柄を急ぐあまりに、十分な譲歩を引き出さないまま合意してしまうシナリオである。

 ボルトン氏は北朝鮮に対して完全な非核化を先行するよう要求したが、トランプ氏は米朝関係は「(ボルトン氏のために)大惨事」となったと批判し、北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)委員長に同調した形だ。今後は北朝鮮ペースで交渉が進むのではないか。

 日本は核兵器や中・短距離ミサイルの保持を北朝鮮に認めるような合意は避けるよう米国への説得を強化したい。

 またボルトン氏は日米同盟など同盟国との協力を重視しており、日本政府は同氏を「米政権内の日本の味方」と位置付けてきた。今後は日米安保条約不要論を口にするトランプ氏の同盟軽視が勢いを増す可能性がある。

 対外政策の要である安全保障問題担当補佐官の辞任は政権発足から2年8カ月で3人目。政権高官ポストには依然空席が多く、トランプ氏の統治能力の欠如は明らかだ。

 また解任に当たり、ボルトン氏を「賢くない」「間違いを犯した」と公言した。これまでの高官解任の時もこうした容赦ない攻撃をトランプ氏は行っており、その人格には首をかしげる。

 ボルトン氏は米政界保守派の重鎮で、言論界も含めて一定の支持者がいる。解任に抗議して政権からは複数の側近が辞任しており、ボルトン氏も今後メディアなどでトランプ氏や政策への批判を繰り広げるだろう。ボルトン氏の解任で熟慮の外交が始まると楽観するのは禁物だ。

2019年9月15日 無断転載禁止