米大統領弾劾審議開始/徹底調査で解明を

 トランプ米大統領の弾劾訴追に向けた審議の開始を、民主党の下院議長が表明した。トランプ氏が今年7月、ウクライナ大統領と電話会談した際、民主党の有力大統領候補であるバイデン前副大統領とその息子を調べるよう圧力をかけたとの新たな疑惑が発覚したためだ。

 ロシアの脅威にさらされるウクライナを支援するための米国の巨額軍事援助が今夏、いったん凍結されており、バイデン氏への調査が援助再開の条件だったのではないか、と民主党は追及している。

 事実とすれば、大統領が外交・安全保障政策の履行を道具に大統領選の対抗馬に打撃を与えようとしたことになり重大な倫理違反と言える。

 トランプ氏の言動には首をかしげるものが多いが、この疑惑は米国の国益よりもあからさまに自らの再選を優先した可能性を示すものだ。大統領の資格が問われる内容だけに徹底的な調査が必要だ。共和党有力議員もトランプ氏に包み隠さずに事実を明らかにするよう求めている。

 弾劾手続きは下院での弾劾訴追、さらに上院での罷免決定と2段階で進む。下院は民主党が過半数を握ることから訴追の可能性があるものの、上院では与党共和党が多数派で、しかも罷免には3分の2の賛成が必要だ。共和党内でのトランプ氏の支持率は高く、トランプ氏は徹底抗戦の構えだ。

 トランプ氏側近の召喚や公聴会の開催の是非を巡ってトランプ氏と民主党の対立は長期化しそうだ。標的となったバイデン氏は来年11月に本番を迎える大統領選の民主党指名獲得レースでは最有力で、弾劾審議はそのまま大統領選の前哨戦となる見通しだ。

 弾劾対策を優先せざるを得ないトランプ政権は今後、内外政とも空転が懸念される。日本政府も米国の政治が混乱の中にあり、対外的な約束も含めて実行力に疑問符がついていることを前提に米国と接すべきだろう。

 今回の疑惑はトランプ氏とウクライナ大統領の電話会談の内容を知った米情報機関の関係者が内部告発を行ったことで発覚した。告発を受けた情報機関担当の監察官は「深刻で緊急」の問題だとの認識を示したという。

 トランプ氏はバイデン氏の息子がウクライナの天然ガス企業の役員を務めたことがあり、この時に不正があったとかねて主張し、腹心である元ニューヨーク市長にバイデン氏本人の関わりも含めて調査を命じていた。電話会談ではウクライナ大統領に調査を8回も促したと米メディアは報じている。

 2016年の大統領選でロシアが組織的なハッキングやフェイクニュースの発信によって、トランプ氏に有利になるよう介入した。またトランプ氏は再選を至上の課題とした政策遂行が露骨だ。

 こうした事情を知る米国民は今回のトランプ氏の疑惑に「またか」と冷笑的になるのではないか。それほど今の米国では選挙や民主主義に対する信頼が損なわれている。

 米政界は大統領選が近づくと、政策よりも疑惑を巡る攻撃合戦に集中するあしき傾向がある。だが今回の疑惑は元首同士の会談までも、選挙の相手を蹴落とす場に利用されたのかという恐ろしさを感じる。米国の信頼回復のためにも事実の解明を望む。

2019年9月26日 無断転載禁止