所信表明演説/まず「国難」に取り組め

 安倍晋三首相が衆院で所信表明演説を行い、臨時国会が始まった。演説で安倍首相は、急速に進む少子高齢化を改めて「国難」と位置付け、「真正面から立ち向かう」と強調した。その上で憲法改正を「新しい国づくりの道しるべ」として、野党に衆参両院の憲法審査会で議論を進めるよう呼び掛けた。

 少子化対策として今月から始まった幼児教育・保育の無償化、来年4月に始まる高等教育無償化を誇ったが、それ以上の具体策は示されていない。安倍政権が今、全力を挙げて取り組まなければならないのは少子高齢化と、それに起因するさまざまな問題であろう。

 そもそも憲法改正を教育、働き方の多様化と社会保障制度の全世代対応化など社会システム改革の道しるべとすること自体が無理がある。憲法を改正しなければ少子高齢化を乗り切ることができないわけではない。自民党総裁としての任期が残り2年を切る中、自身の願望を優先課題とするのは本末転倒だろう。

 安倍首相が少子高齢化を緊迫する北朝鮮情勢とともに国難と見なしたのは2年前の2017年9月の衆院解散に当たってだった。さらに「待機児童ゼロ」「幼児教育の無償化拡大」「多子世帯への重点支援」によって「1.4程度の出生率を1.8程度に回復できる」と女性1人が生涯に産む子どもの推定人数を示す合計特殊出生率で事実上の数値目標を掲げたのは4年前の15年9月だ。

 政府は「2025年年度末までに実現」としているが、厚生労働省の人口動態統計(概数)によると18年の合計特殊出生率は1.42で、3年連続で前年から減少した。目標達成は不可能に近い。1.8に言及した際の「子どもを望む人が増え、人口が安定する2.08も十分視野に入る」との発言は今や絵空事だ。

 少子高齢化が懸念され始めたのは1980年代からだ。今、求められているのは安倍政権のみならず、この間ほぼ政権の座にありながら国難を放置した自民党の対応の総括と、実効性のある施策の提示だ。

 それを、少子高齢化があたかもどこかからやってきたかのごとく国難、国難と言い、国民に「立ち向かう」姿勢を強調しているように映る。

 全世代型社会保障制度も突き詰めれば、高齢者に手厚かった制度を若者世代にも振り向け、高齢者の就業期間延長を図るということであり、第2次安倍政権発足時から訴えていた「持続可能な社会保障制度の確立」の一環である。言い換えと言ってもいい。

 外交課題でも同様に具体策は乏しい。北朝鮮による日本人拉致問題について「条件を付けず」に金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長と会談に臨む決意を示したが、無条件の首脳会談がどう解決に結び付くのか。条件を付けていたのは安倍首相自身ではなかったか。

 ロシアとの北方領土返還交渉に関しても4島での共同経済活動などを成果として誇ったが、その先に返還は見えてこない。

 安倍首相はアベノミクス、地方創生、女性活躍、1億総活躍社会、働き方改革と次々に「看板」をすげ替えることで政権維持を図ってきた。今後の国会審議では、スローガンに踊らされない厳しい現実を踏まえた論戦が必要だ。

2019年10月5日 無断転載禁止