日本郵政がNHKに抗議/自由な番組作り保障せよ

 かんぽ生命保険の不正販売を報じたNHKの番組を巡り、日本郵政グループがNHK経営委員会に抗議した。経営委はNHK会長に厳重注意、会長は郵政側に事実上謝罪した。公共放送の独立性が揺らいでいる。

 番組は昨年4月放送の「クローズアップ現代+(プラス)」。郵便局員らへの取材を基に、顧客に不利益となる保険契約をさせている実態を告発した。取材班は続編も放送するべく、インターネットで情報を募集した。これに対し、郵政側は自ら襟を正す代わりに、NHK会長と経営委に抗議文を送った。

 日本郵政の長門正貢社長は「(情報を募集するネット動画が)偏向しているのではないか」と述べており、続編を含むNHKの報道に圧力をかける意図があったのは明白。同社副社長の鈴木康雄・元総務事務次官は、NHKの取材手法を「暴力団と一緒」と非難、組織的な不正を全く反省していないように見える。

 郵政側は、NHKの番組担当者が「会長は番組制作に関与しない」と説明をしたのをとらえ「最終責任者は会長だ」と追及した。放送法は会長がNHKの業務を総理すると定めているものの、個々の番組の制作は現場に任されている。

 ところがNHKの最高意思決定機関である経営委は「番組担当者が間違った説明をした」(委員長の石原進JR九州相談役)として、上田良一会長に口頭で厳重注意。上田会長は昨年11月、「説明が不十分で誠に遺憾」との文書を郵政側に出した。続編の放送は今年7月までずれ込んだ。

 経営委員は衆参両院の同意を得て首相から任命され、個別番組に介入することは放送法で禁じられている。経営委の厳重注意はガバナンス(組織統治)強化が名目だが、実態は個別番組に関するもので同法に触れる疑いが強い。

 会長も「番組編集の自由が損なわれた事実はない」と釈明しながら、事実上謝罪しており、自主自律を放棄したと言われても仕方がない。

 なぜNHKは過剰反応したのか。幹部は「相手は普通の企業じゃない、総務省だと認識していた」と語る。日本郵政は政府が筆頭株主で、鈴木副社長をはじめ、放送免許を握る総務省の出身者が少なくない。役所の権限を背景にした郵政側の強引な抗議を、経営委が追認し、会長も抗し切れなかった形だ。

 NHKは2001年にも、役員が安倍晋三官房副長官(当時、現首相)らと面会した直後に、従軍慰安婦を特集した番組を大幅に改編。NHKと民放でつくる放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会から「公共放送にとって最も重要な自主自律を危うくし、視聴者に重大な疑念を抱かせた」と厳しく批判された。

 今回もNHKへの信頼は傷ついた。視聴者団体などからは、経営委員長の辞任を求める声が上がっている。

 信頼を取り戻すには、良い番組を放送するしかない。NHKには、他メディアに先駆けてかんぽ生命の不正を暴いた優秀な人材がいる。現場を萎縮させるのではなく、逆に組織として意欲的な取材を支援し、番組を自由に作らせるべきだ。権力をしっかり監視してくれる公共放送なら、視聴者は喜んで受信料を支払うのではないか。

2019年10月6日 無断転載禁止