米朝実務協議/交渉ペース引き寄せろ

 米国と北朝鮮がストックホルムで7カ月ぶりとなる実務協議を行ったが、非核化を巡る交渉の仕切り直しは厳しい船出となった。北朝鮮は「決裂」、米国は「良い議論だった」と正反対の評価を下した。まずは互いに交渉ペースを掌握することに焦点を置いていたようだ。

 2月にハノイで行われた2回目の米朝首脳会談で、トランプ大統領が席を立って終わったことも、北朝鮮は深刻に捉えていたのだろう。今回は逆に北朝鮮が米国を袖にするような形で協議を中断した。

 こうした結末は、ある程度は予想されていたことだ。「決裂」という強い表現を北朝鮮は使ったが、決して交渉を打ち切るというニュアンスではない。今後の交渉が北朝鮮ペースに流されないようにすることが重要だ。

 今回の協議について北朝鮮は協議終了後、半日ほどして出した外務省報道官談話で、「わが国の安全を脅かし、わが人民の生存権と発展権を阻害する敵視政策」を「完全かつ不可逆的に撤回するための実際の措置」を講じるよう要求した。

 具体的に言及してはいないが、米韓合同軍事演習の中止と経済制裁の緩和・解除を意味するとみられる。これらを「完全かつ不可逆的」に行えというのは、ハードルが高すぎる。北朝鮮自身もおそらくそう簡単には実現できないことは分かっているだろう。

 今後の焦点は、談話が「年末まで」を期限として、米国に対案を準備するよう求めている部分にある。金正恩(キムジョウン)朝鮮労働党委員長は今年4月の最高人民会議で行った施政演説で「今年末まで忍耐心を持って米国の勇断を待つ」と述べていた。

 改めて談話で「年末まで」と強調したことは、北朝鮮が米大統領選が本格化する来年初頭、特に2月か3月上旬に予定されているスーパーチューズデーまでに米国と一定の合意を引き出し、それをもとに3回目となる米朝首脳会談を行おうと考えていることをうかがわせる。

 ただ北朝鮮としては実際には年末までに実務協議が何回行われるか、というよりも、首脳会談でトップダウン式に米韓合同軍事演習の中止や、経済制裁の緩和・解除をトランプ氏の口から言わせようとしているとみられる。

 また、北朝鮮は年末までに、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の開発も急ぐとみられる。2日の試験発射は2段式の「北極星3」型とみられるが、水中に固定した発射台からの試射で完全なものではなかった。

 金氏が7月に視察した新型の潜水艦からの発射を最終的には目指しているとみられ、そのための時間稼ぎの意味も「年末まで」という時間的猶予を設定した背景にあるとみられる。

 日米韓は近く、ワシントンで今回の実務協議を受けた会談を行う。北朝鮮の狙いを正確に分析し、完全な非核化までは制裁を解除しないという原則を確認することが重要だ。

 特にトランプ政権が大統領選をにらみ、安易に妥協しないよう働きかけを強めることが日韓には求められる。北朝鮮の相次ぐ短距離ミサイル発射や今回のSLBM試射をトランプ氏が問題視しない姿勢を示すことは、日韓にとって無視できないからだ。

2019年10月8日 無断転載禁止