マラソン札幌実施へ/違和感が拭えない

 国際オリンピック委員会(IOC)が東京五輪のマラソンと競歩の会場を札幌市に移転させる大胆な計画変更構想を打ち出した。厳しい暑さが予想され、両種目のレースは途中棄権者が数多く出る恐れがあると指摘する。

 IOCは既に大会組織委員会とは合意したとの認識だ。大会準備を組織委とともに進める東京都は当初、反発する姿勢を見せたが、外堀は埋まりつつあり、計画変更案を受け入れざるを得ないだろう。

 両種目では中東カタールのドーハ世界陸上選手権で、暑さから途中棄権する選手が数多く出た。IOCはこれまで、組織委と東京都による暑さ対策計画に一定の評価を与えてきたが、ここにきて五輪のイメージを損なう事態を招きかねないと不安になったのかもしれない。

 IOCが強調する「選手第一」の考えは、組織委も東京都も共有している。選手により良い環境を整えるために札幌への移転以外、方法がないのなら、組織委も東京都も反対はできない。

 それにしてもIOCの発表は突然だった。こうした計画の変更要望は通常、関係する国際競技連盟の医事委員会、あるいはアスリート委員会から出てくる。しかし今回は国際陸連の委員会が最初に声を上げた形跡はない。

 また国際陸連がIOCに要望したものではなく、IOCが逆に国際陸連に提案したという。かなり異例な、トップダウンとも言える手続きだ。

 10月中にIOC、組織委、東京都はこの問題に限らず、準備全般について協議する予定がある。それを待たずに、IOCが関係者に合意を迫ったようにもみえる。

 IOC東京五輪調整委員会のコーツ委員長は「先週には(橋本聖子)五輪相が前向きだと知った」と述べた。日本の一部の関係者とは調整したようだ。

 この変更構想は、暑さ対策という単なる技術的なレベルを超えたものになったのだろう。大きな違和感を覚える。

 路面温度の上昇を抑える遮熱性舗装を整備し、街路樹の枝葉を大きく育て木陰を増やす取り組みをはじめ、組織委と東京都が進めた、さまざまな暑さ対策をIOCはこれまで高く評価していた。ドーハ世界陸上での状況の変化があったとはいえ、「東京ではなく札幌へ」と姿勢が一変したのは大きな驚きだ。

 日本陸連はマラソン代表選手を本番に近い環境で選考しようと、本番とほぼ同じコースで男女各2選手を選んだばかりだ。選手も陸連も、あの選考レースは何だったのかとの思いに違いない。

 札幌への会場変更はそう簡単ではない。IOCが神経を使う国際映像制作ばかりか、競技会場の整備、小規模とはいえ選手村に当たる宿泊施設の確保と課題は多い。

 ボランティアの確保、審判などの競技役員の移動についても綿密な計画が欠かせない。当然、新たに発生する経費もあるだろう。それらの対応と負担は誰がどのように進めるか。

 IOCは東京での実施は選手にとって危険で、許容できないほど過酷なものとなることが予想されると指摘するなら、その科学的、合理的根拠を示さなければならない。本来なら、国際陸連のアスリート委員会の意見をまず聞くべきだ。

2019年10月19日 無断転載禁止