自衛隊中東派遣/緊急・必要性あるのか

 安倍晋三首相は国家安全保障会議(NSC)会合を開き、中東を航行する日本船舶の安全を確保するため、自衛隊の派遣を本格的に検討するよう関係閣僚に指示した。

 イラン沖のホルムズ海峡を航行する船舶の安全確保のために米国が呼び掛けている「有志連合」には参加せず、日本独自に自衛隊の艦船や哨戒機を派遣、アラビア半島南部のオマーン湾やイエメン沖で警戒監視活動に当たる方針だという。河野太郎防衛相は現時点ではホルムズ海峡は派遣地域に含めないと述べた。

 中東の情勢悪化を踏まえ、米国のトランプ大統領は「自国の船舶は自国で守るべきだ」と日本などに対応を要求。米政府は有志連合への参加を求めていた。

 一方で、事実上イラン包囲網の意味合いを持つ有志連合に参加すれば、日本が長年築いてきたイランとの友好関係にひびが入りかねない恐れがあった。「独自派遣」は、米国の要求に対応しながら、イランとの対立を回避する、ぎりぎりの「苦肉の策」と言えるだろう。

 ただ、派遣の根拠には疑問がある。菅義偉官房長官は、派遣の根拠を、国会の承認が必要ない防衛省設置法の「調査・研究」と説明した。情勢が緊迫化し、不測の事態も起こり得る中東への自衛隊派遣という重要な判断に、国会の関与がなくていいのか。

 こうした派遣を認めていけば、なし崩し的に自衛隊の海外派遣が拡大するという懸念は拭えない。国会での歯止めの議論が必要だろう。

 派遣の緊急性や必要性も問われる。首相はこれまでのトランプ氏やイラン首脳との会談で、対話による中東の緊張緩和に尽力すると強調してきた。有志連合に参加しないとはいえ、自衛隊の派遣は大きな方針転換だ。

 一方で、中東では今年6月にホルムズ海峡付近で日本の海運会社が運航するタンカーが何者かに攻撃される事件が起きたものの、それ以降は日本の船舶が狙われる事案は起きていない。今、派遣を決めなければならない緊急性はあるのか。

 日本が輸入する原油の約8割が通過し、エネルギー供給の「生命線」とも言えるホルムズ海峡を活動地域としないのであれば、本当に派遣する必要があるのかという疑問符が付く。

 トランプ政権は有志連合構想を巡り、11月中にも海上監視体制の構築を目指すことを計画し、同盟国や友好国に示していたとされる。このタイミングでの「独自派遣」の方針発表は、有志連合には参加しないという日本政府の意思を事前に明確にしておくためではないのか。

 自衛隊の警戒監視活動に対して、収集した情報の提供を米国が求めてくるケースも予想される。実際の活動が事実上の有志連合参加になることはないのか。自衛隊の具体的な活動内容を明確に定め、国民に説明するよう求めたい。

 自衛隊の中東派遣に関して、日本政府は自衛隊法に基づく「海上警備行動」や、海賊対処法に基づく「海賊対処行動」などを検討してきたが、適用のケースには当たらないと判断した。ただ「調査・研究」での活動には限界がある。タンカー攻撃などの事態の発生に対処できるのか。重大な課題となる可能性が残る。

2019年10月22日 無断転載禁止