在職年金見直し/高齢就労は弱者配慮を

 厚生労働省は、一定以上の収入がある高齢者の年金を減額する「在職老齢年金制度」を見直し、対象を半分近くに縮小することを検討中だ。高齢者の就労促進が狙いで、政府が全世代型社会保障で目指すのは「70歳まで働く社会」というイメージが明確になってきた。

 少子高齢化が深刻な日本では「65歳以上」という高齢者の「線引き」を変えるような政策もやむを得まい。ただ、高齢者は元気な人と健康に問題がある人との個人差が大きい。弱者切り捨てにならないよう目配りが必要だ。

 在職老齢年金制度では、65歳以上の厚生年金受給者が働いて得た賃金と年金を合わせた月収が47万円を上回ると、上回った額の半分を年金から減額される。高齢者の働く意欲を損なっているとの指摘があるため、厚労省の改正案は基準額を62万円に引き上げる方向だ。これにより、今の減額対象者約41万人が約23万人まで減ることになる。

 年金額が増える人には朗報だろうが、減額が縮小すれば支給総額は年約2200億円増加する。その分、年金財政が悪化するため、厚労省の検証では約30年後に将来世代が受け取る年金水準は0.2ポイント下がることになる。

 また年金減額がなくなるメリットがあるのは65歳以上の働く厚生年金受給者の8%にすぎない。しかも、これらの人々は国民年金だけの人に比べれば月収が多く「高所得者優遇だ」との批判もある。厚労省の審議会では「減額縮小が高齢者雇用につながるという裏付けはない」と疑問の声も出ている。

 それでも政府が検討を進めるのはなぜか。政府の統計では、最近7年間で15~64歳の生産年齢人口が540万人減った一方、就業者数は450万人増えた。これは働く高齢者や女性が増えたためだ。60歳以上の8割以上が70歳以降まで働きたいと希望しているとの調査結果も踏まえ、政府は高齢者の意欲を後押ししたいと考えている。

 全世代型社会保障で目指すのは、揺らぐ社会保障制度の安定化と、人口減少の影響をはね返す経済成長だ。少子高齢化に立ち向かう点では共通するが、今回の在職老齢年金見直しでは「二兎(にと)を追う」難しさが表面化したと言える。

 財政健全化には余裕のある高齢者の年金減額が必要。だが減額すると、元気な人も年金が減らない程度に働き方を抑えてしまう。これでは経済成長を阻む人手不足の解消につながらない。見直せば年金支給増で財政悪化に-との矛盾にどうバランスを取るかが課題になる。

 ほかにも「70歳まで就労」が前提の改革案はめじろ押しだ。現在は60~70歳の間で選択できる公的年金の受給開始年齢を、75歳まで可能にする案を厚労省が提示。労働分野でも希望者が70歳まで働けるよう就業機会確保を企業の努力義務とする法改正が予定される。介護保険は、サービス受給開始を現行の65歳から引き上げる検討に入った。

 ただ健康が不安で、老後はゆっくり過ごしたいと願う人もいる。その人たちは、保険料納付が終わり年金受給が始まる「ゴール」が目の前から遠のくような話には酷な印象を持つだろう。老いや病気、介護のリスクに備える社会保障の本旨に反しない改革が望まれる。

2019年10月28日 無断転載禁止