バグダディ容疑者死亡/テロの脅威は終わらない

 過激派組織「イスラム国」(IS)の指導者アブバクル・バグダディ容疑者がシリア北西部で急襲を受け、自爆して死亡した。米軍特殊部隊の作戦の成果として、トランプ大統領が発表し「世界はより安全になった」と述べた。

 5年前、バグダディ容疑者は「国家」樹立を宣言した。シリア、イラクにまたがる領土支配と地球規模で猛威を振るうテロの悪夢に国際社会は悩まされた。ISが支配地域と指導者をいずれも失ったことで、そうした時代は一区切りを迎えた。

 だが、残存勢力はなお活動している。ISの思想を信奉するさまざまな過激派が世界各国に根付いており、テロの脅威は終わらない。国際社会は残存勢力の動向を注視し、過激思想の拡散を絶たなければならない。

 バグダディ容疑者はイラク生まれで、国際テロ組織アルカイダ系勢力の指導者だったが、内戦中のシリアに進出して2014年6月、政教一致国家の樹立を宣言。自らを預言者ムハンマドの後継者で、世界のイスラム共同体を率いる「カリフ」と位置付けた。

 中東では第1次世界大戦中にオスマン帝国の分割を協議した英国、フランスなどが国境線を勝手に引いたという屈辱感がある。ISは本物の国家のような行政機構を築き西洋主導の国際秩序に真っ向から挑戦したことで多くの若者を引きつけた。巧みにインターネットで対外発信したことも過激思想の拡散を支えた。

 「世界で最も無慈悲で乱暴なテロ組織」とトランプ氏が述べたように、130人が死亡した15年のパリ同時多発テロをはじめ、数々の残虐な事件に関与した。15年1月、シリアに渡航した湯川遥菜さんと湯川さんを捜しに行ったジャーナリスト後藤健二さん殺害の声明を出した。16年7月のバングラデシュの飲食店襲撃テロでは日本人7人を含む22人が死亡した。

 だが米軍の後押しなどで包囲網が次第に狭まり17年に支配地域をほぼ失った。同年7月にイラクで拠点としていた北部モスルを奪還され、10月には米軍と共闘するシリアの少数民族クルド人勢力がISの「首都」とされたシリア北部ラッカの解放を宣言した。

 今月上旬、トルコがシリア北部に侵攻したことは大きな懸念材料だ。トルコ軍の標的はIS掃討に協力してきたシリアのクルド人勢力で、混乱の中、拘束されていたIS戦闘員が多数逃走したという情報もあり「IS復活につながる」と懸念の声が出ている。

 シリア内戦の終結など中東の安定化を進めない限り、テロはなくならない。社会を覆う不公正や貧困など、背景にある根本的問題に切り込む粘り強い努力も必要だ。

 世界に広がった過激思想は容易にはなくならないだろう。インドネシアでは今月10日、ISに共鳴する過激派の男が治安担当の閣僚を刃物で刺し、負傷させた。大規模な爆弾事件に比べ、こうした犯行の取り締まりは難しい。

 ISの恐怖が世界を覆った間に、難民・移民の排斥を掲げる政治勢力が欧州で台頭した。イスラム教徒を激しく憎悪する白人至上主義などのテロが世界で相次いだ。憎悪の連鎖は食い止めなければならない。テロ根絶へ向け、宗教や民族の対立を乗り越え、異なる価値観を認める社会を築くことこそが重要だ。

2019年10月30日 無断転載禁止