ベルリンの壁崩壊から30年/民主主義後退に歯止めを

 冷戦の終結を象徴する1989年11月9日のベルリンの壁崩壊から30年がたった。あの時、勝利したはずの自由民主主義と市場経済は、今世界のいたるところで後退を余儀なくされている。

 民主主義陣営のリーダーである米英両国はポピュリズム(大衆迎合)型の政治家が統治し、国家を分断して「敵」をたたく政治が主流になった。

 ハンガリー、ポーランドなど旧東欧での民主化の後退は顕著だ。欧州全体でも中道政党は軒並み議席を減らし、過激な右派や左派政党が支持基盤を拡大している。

 「アラブの春」もほとんどの国で失敗した。エジプトでは強権的な政府が復活し、シリアやイエメンでは激しい戦争で人道危機に陥った。

 冷戦終結とグローバリズムで可能となった人の自由な移動は、移民・難民の急増を招き、国境管理の厳格化という逆戻りの動きが始まった。

 米国の人権団体「フリーダムフォーラム」は2005年を世界の民主主義の頂点とし、その後は低下を続けていると分析している。

 民主主義陣営の低迷をよそに中国、ロシア、トルコなど強権的な国家が勢いを見せる。

 ベルリンの壁が崩れた1989年は、中国で天安門事件が起き民主化運動が弾圧された年でもある。その後の中国の成長を見て、強権国家が民主化を拒否しながら市場経済を導入し成長を遂げる中国モデルに魅力を感じる国は多い。それらの国々は「自由の欠如」「監視社会」など中国の負の側面を重大視しない。

 民主主義陣営が後退する理由は明らかだ。市場経済は現代史上例がないほどの富の偏在を生んだ。だが政治はこれを是正できていない。移民など少数派と多数派の激しい対立にも対応できていない。むしろ政治家は国家を分断し、解決を難しくしている。

 トランプ米大統領の政治は選挙で勝てばあらゆる権利を手中に収めて少数派・弱者を無視するという「多数派の専制」であろう。白人至上主義的な言動など、特定の支持者を喜ばすポピュリズムを駆使している。

 欧州連合(EU)離脱を決めた英国民投票もそうだったが、米大統領選ではフェイクニュースが有権者の判断に影響を与えた。民主主義の基盤である投票行為への信頼性が揺らいでいる。

 国際政治では自国第一主義が顕著だ。地球温暖化の影響と疑われる異常気象の被害が続発しているのに米国はパリ協定からの離脱を通告した。イラン核合意からの離脱や一方的な追加関税政策など国際合意から背を向けている。

 香港、レバノン、チリなどで民主化の後退や格差の広がりに不満を持つ人々のデモが巻き起こっている。だが自国第一主義の潮流を象徴するように、国際的な連帯は広がっていない。

 世界は米国と中国の本格的な覇権争いが始まる兆候がある。それは世界中を巻き込む冷戦に、30年ぶりに突入することを意味する。

 世界で民主主義への信頼が揺らぎ米中対決の時代到来の中で、日本の将来は不透明さを増す。激動の世界で自由、人権、そして平和という日本の理念を再確認し、自由民主主義のとりでとなるくらいの覚悟が求められる。

2019年11月13日 無断転載禁止