世事抄録 万葉集は命の源

 先日、新元号「令和」の考案者とされる万葉集研究の第一人者、中西進氏の講演を聴いた。

 今や令和の考案者として時の人であり、全国から依頼が殺到しているであろう中西氏の講演が、令和がスタートしてまだ半年しかたっていないこの時期に松江で行われること自体、少なからぬ驚きを覚えていたが、主催者のお話によると、中西氏に講演を依頼したのは、なんと新元号の発表よりも前だったという。これは先見の明を超えて、もはや依頼者には予知能力が備わっていたのではないかと思わせるような驚きだった。

 講演は、万葉集に収められた約4500首の歌の大部分が恋の歌であり、そこには遠い昔の日本人が抱く「命の愛(かな)しみ」を表現した言葉が満ちている、という内容だった。「かなしみ」に「愛」の字を当てているのが印象的だった。

 また、内容以上に素晴らしかったのは(と言うと失礼かもしれないが率直な感想なのでお許しを乞う)、中西氏は90歳でありながら、端々に「ここ笑うとこですよ」とユーモアを交えながら約1時間半の講演を難なくこなしたことだ。つまり、万葉人の生き生きとした心情に長年触れてきたことが、氏の健康長寿の源であることを証明した形だ。

 そんなちょっとずれた感想を抱きつつも、爽やかな気持ちで会場を離れることができた。

(島根県津和野町・柊)

2019年11月14日 無断転載禁止