ゴーン被告会見/逃亡は正当化できない

 特別背任罪などで起訴され、保釈中に日本から逃亡した前日産自動車会長カルロス・ゴーン被告が、レバノンのベイルートで記者会見した。自らの潔白を訴え「推定有罪の原則がはびこっている」「公平な裁判を受けられる望みを失った」と日本の司法制度を批判。事件は日産経営陣の一部と検察が仕組んだとする「陰謀論」を展開した。

 プロジェクターで「無実の罪を晴らす証拠」を示し、約2時間半、早口でまくしたてた。陰謀を企てたとして西川広人前社長や検察との司法取引に応じた外国人執行役員らの実名を挙げ、非難。名指しはしなかったが、日本政府関係者の関与もほのめかした。

 ゴーン被告が逃亡後、公の場に姿を見せるのは、これが初めてだ。しかし会見に招かれたメディアは前会長が自ら選び、これまで好意的な報道をした記者が中心。日本のメディアの多くは、日産と検察の言い分を垂れ流してきたとして締め出された。そんな中、逃亡の経緯については口をつぐみ、日本の司法と日産への攻撃に終始した。

 日本の検察との対決から逃れたとはいえ、国際手配されるなど不安定な立場にあり、国際世論を味方に付けたいとの思惑がのぞく。だが一方的主張に説得力はない。どんなに言葉を連ねても、逃亡は正当化できない。

 ゴーン被告は2018年11月、プライベートジェットで羽田空港に降り立ったところを東京地検特捜部に任意同行を求められ、逮捕された。以来、罪を認めなければ勾留が長期に及ぶ「人質司法」に海外メディアから批判が集まった。国内でも以前から批判の声があり、最近は裁判所が積極的に保釈を認めるなど改善の動きが見られるが、いまだ道半ばだ。

 会見で前会長は4回に及んだ逮捕を「迫害」と表現し「1日8時間も取り調べを受け、弁護士も同席できなかった」「検察官から『自白すれば、すぐ終わる。しないなら、家族も追い回すことになる』と繰り返し言われた」と述べた。

 恐らく、その通りだろう。また起訴内容について「根拠はない」とし、有価証券報告書に役員報酬を少なく記載したとされる金融商品取引法違反について「支払われていない報酬が容疑とは理解に苦しむ」と否定。日産の資金を不正支出したとされる特別背任についても「社内の適正な手続きを経た」とした。だが、いずれも従来の主張の域を出ず、説得力に欠ける。

 逃亡の経緯は明らかにしなかったが、「自分と家族を守るためだった」と述べた。長期にわたり身柄の拘束や勾留によって家族から引き離されたことも振り返り「喪失感の深さを言い表すことはできない」と語った。

 前会長は「レバノンで長期滞在する準備ができている」と話した。レバノンは日本と犯罪人引渡条約を結んでおらず、現地では世界的なビジネスで成功を収めた「英雄」として人気があるといわれている。だが以前に「裁判で無実を証明したいと切に願っている」と言いながら保釈条件を破り、違法な手段で逃亡した事実は消えない。

 今後も会見などで「無実の証拠」を示す意向のようだが、本当に無実を証明したいのなら、日本の法廷で堂々と検察と対峙するしかない。

2020年1月11日 無断転載禁止