消費者市民社会/買い物が世界変える

 弁護士 遠藤 郁哉

 現代日本社会において、買い物をすることなく生活している人はまずいない。その意味で、私たちはひとり残らず消費者である。では、買い物をするとき、どのような点に着目して商品を選んでいるのだろうか。

 値段や質、量、色合い、産地など、着目する点は人それぞれに異なる。ただ、着眼点に違いはあっても、少なくとも「ここがいい!」という点がある商品を選ぶことに違いはない。消費者がある商品を買う(選ぶ)ということは、実は、その商品を一人の消費者として「支持する」という意味を有している。

 当たり前だと思うかもしれない。しかし、買い物という行為が、その商品を「支持する」という意味を持つと意識されたとき、個人としての消費行動を超えて、広く社会的な意義を有することになる。

 経済のグローバル化が進展し、大量生産・大量消費が当たり前となった現代社会においては、消費者と生産者は「見えない壁」によって分断されている。手に取った商品が、誰の手で、どのような環境下で作られたものなのか、私たちは容易に知ることができず、想像することさえ難しい。

 「見えない壁」の向こう側では、合理的な生産の名の下に、地球温暖化や熱帯雨林の伐採、多量の農薬散布による土壌汚染が起きているかもしれない。発展途上国の子どもたちが、劣悪な環境下で低賃金・長時間労働を強いられているかもしれない。私たちの消費生活がほかの誰かの犠牲で成り立っているとするならば、それを手放しで享受することにはどこか後ろめたさが残る。

 近年、エシカル消費(倫理的消費)が注目されている。環境や人、社会、地域に配慮した消費のことであり、エコ消費、フェアトレード、地産地消などがその例である。これらは「見えない壁」の向こう側に意識を向け、消費者と生産者とのつながりを取り戻す試みにほかならない。環境や人をないがしろにする社会の仕組みに、将来的な持続可能性は期待できない。エシカルな商品を買う(選ぶ)ということは、環境や人に配慮した消費や社会のあり方を支持するという意思の表明なのである。

 一人一人の消費者が、自らの消費行動が社会経済情勢や地球環境に影響を与えることを自覚して、公正かつ持続可能な社会の形成に積極的に関わっていく社会を、消費者市民社会という。個人の家計消費はわが国のGDPの約6割を占める。個々の消費者の力は小さいかもしれないが、消費者全体の力は決して小さくない。そうであればきっと、日々の買い物には、世界を変える力がある。そのことを認識し、できる範囲で環境や人に配慮した消費を選択していくことが、消費者市民社会の実現に向けた第一歩であり、よりよい社会を築き上げる基礎となるのである。

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 えんどう・いくや 京都大法学部卒、京都大法科大学院修了。京都大非常勤講師などを経て、日弁連消費者問題対策委員会副委員長(消費者教育・ネットワーク部会長)、島根県弁護士会消費者問題対策委員会委員長。

2020年1月12日 無断転載禁止