ウクライナ機撃墜/この悲劇に目を覚ませ

 最悪の悲劇が起きた。軍事的緊張が高まるイランの首都テヘランを離陸したウクライナ旅客機をイラン軍が「敵」と見誤って撃墜してしまった。イラン人、カナダ人、ウクライナ人など乗客と乗員の計170人以上全員が死亡した。

 米国、イランの意地の張り合いのような報復合戦に、無関係の多数の市民が巻き込まれ、理由もなく尊い命を奪われた。悲劇の再発を防ぐために、両国は長年の対立に終止符を打ち永続的な安定のための対話を真剣に始めなければならない。

 国際社会も、米、イランのどちらの側に立つというのではなく、火種が多い中東の安定、テロ封じ込め、核兵器の拡散防止などのために一緒になって知恵を絞るべきだ。安倍晋三首相は11日から中東を歴訪した。中東各国や主要国とともに本腰を入れて、両国の説得に当たってほしい。

 撃墜は、8日未明にイラン革命防衛隊が3日の司令官殺害の報復としてイラクにある2カ所の米軍駐留基地を弾道ミサイルで攻撃してから数時間後に起きた。米軍の反撃を予想して厳戒態勢にあったイラン軍がテヘラン上空を飛ぶウクライナ機を、安全保障上重要な革命防衛隊の基地に向かう敵勢力と判断するという致命的な過ちを犯した。

 イランは当初「機体の技術的なトラブルが原因」と主張したが、米人工衛星が地対空ミサイルの発射を確認、墜落現場のがれきの中からミサイルの部品が発見されたとの情報が広まり、誤謝を認めた。

 大失態をイランが認めたのは、証拠を突き付けられ虚偽の説明を続けられないとの判断に加えて、過ちを認めて謝罪することで責任を取る国家であることを印象付ける狙いだろう。米国の軍事・経済圧力の下で民間機撃墜のような悲劇が今後も起こる懸念を喚起し、危機回避に向けた国際社会の協力を促す目的も込められていそうだ。

 軍事的な緊張下で民間機が巻き込まれるのは決して異例ではない。イラン・イラク戦争末期の1988年に米艦がイラン航空機を撃墜し乗客乗員290人が死亡し、2014年にはロシアによるクリミア半島併合で緊張するウクライナ上空を飛行したマレーシア航空機が地対空ミサイルで撃墜され298人が犠牲になった。冷戦時代の1983年には大韓航空機がサハリン上空でソ連機に撃墜され、269人が死亡している。

 今年に入ってからの米国とイランの緊張を受けて、欧米やアジアの航空会社はイランやイラク、ペルシャ湾上空の飛行回避を始めた。また昨年は、世界のエネルギー源が集中するこの海域でタンカーが攻撃されたほか、航行船舶は保険料の高騰などで大きな影響を受けている。緊張を早く緩和しなければ、国際社会はさらに被害を受け、悲劇再発の懸念も募る。

 米国とイランの対立で、壊滅状態だった過激派組織「イスラム国」(IS)が、イラクなどで復活する動きも出始め、中東全体が混迷の度を深めている。

 イランはウクライナ機撃墜について、「米国の冒険主義」に責任を転嫁する発言をしているが、メンツにこだわる主張は慎むべきだ。

 米国・イラン双方に責任があるこの悲劇に、両国は目を覚ましてほしい。

2020年1月15日 無断転載禁止