指定感染症/人権配慮し拡大阻止を

 新型コロナウイルスによる肺炎を感染症法上の「指定感染症」とすることが28日、閣議決定された。国内での感染拡大阻止が狙いで、2月7日の政令施行後、法に基づき患者の強制的な入院や就業制限が可能になる。

 折しもこの日、国内では新たに3例の感染者が確認された(午後8時現在)。うち1人は中国・武漢市の滞在歴がないバス運転手の男性で、初の日本人。武漢からのツアー客から感染した可能性が高い。懸念されていた国内での人から人への感染が起きてしまった。

 新型肺炎は最初の発生地である武漢市から中国全土、さらに世界各国へと広がっている。全ての感染者を日本入国時に発見することは、もはや不可能と思われる。

 今後も空港や港での検疫徹底という水際対策の重要性は変わらないにしても、焦点は国内でのさらなる二次感染、三次感染をいかに防ぐかに移った。指定は妥当で、政府には万全の対策を望みたいが、強制力の行使に当たっては人権への十分な配慮も必要だ。

 中国政府によると、28日夕現在、中国本土の感染者は5千人に迫り、死者は100人を超えた。中国以外での感染者も、日本や米国、欧州など約20の国・地域で約70人に達している。

 中国政府は27日、海外への団体旅行を禁止した。世界規模の拡大に対する習近平指導部の危機感を示している。日本の旅行会社ではツアーの予約キャンセルが相次ぎ、日本経済への深刻な影響が危惧されるが、今は国民の健康と命を守ることが最優先だ。

 ただ、春節(旧正月)の大型連休は既に24日から始まっている上、個人旅行客の入国までは止まっていない。どの程度の拡大抑止効果があるのかは見通せない。

 感染から発症まで最長2週間という潜伏期間を考えると、今後も同様の感染者が現れる恐れがある。中国当局が「感染力がやや増強している」「潜伏期間に感染する可能性もある」との見方を示したことも気になる。

 指定感染症であれば、緊急時に患者を設備や態勢が整った指定医療機関に強制入院させたり、就業を制限したりできる。しかし、過剰な行動制限は人権侵害につながりかねない。強制力行使の判断には、迅速さと同時に慎重さも求められる。

 2009年に起きた新型インフルエンザの世界的流行の際、日本の死亡率は諸外国と比べ格段に低かった。医療水準の高さ、早期診断、早期治療の徹底などが理由として考えられている。

 有効な予防ワクチンがない現在、新型肺炎でも早期の診断と治療が何よりも大切なことは間違いない。医療体制を十分に整えておくことは当然だが、体調に異変を感じた人が、ためらうことなく医療機関に相談・受診できる社会の空気を醸成する必要がある。患者や流行地からの帰国者らが、差別的に扱われることがあってはならない。

 日本は今夏、東京五輪・パラリンピックを開催する。16年リオデジャネイロのジカ熱、18年韓国・平昌のノロウイルスなど、感染症は過去の五輪でも影を落としてきた。国内で新型肺炎が流行すれば五輪開催も危ぶまれる。政府や医療者、市民が連携し、拡大を阻止したい。

2020年1月29日 無断転載禁止